その他二次創作の部屋
P3Re(ペルソナ3)
きっと、あれからずっと私は一人で泣いていた。
涙をこぼす事無く、声を上げる事も無く。ただ心の中で。
7年前、4月1日。終わらない3月から出た後、私達は約束をした。
彼といつか出会う為に。私達は少しづつでも前を向いて、少しづつでも世界を良くしていこうって。
あの時誓った。

彼にもう一度出会う為に。

其れしか方法が無かったっていうのも有った。方法が有るなら縋ってみるしか無かった。彼が私達の……少なくとも私とアイギスにとっては掛け替えの無い人だったから。
だから私は必死で頑張った。少なくとも自分自身がこれ以上無く頑張ったと言い切れるくらいには。
いつか必ず彼にもう一度会えると言い聞かせて。
言い聞かせて。

だけどさ……こんなのキツ過ぎるよ……湊クン……。

私はきっと分かっていた。最初から。心の何処かで、ずっと。

彼に会う事はもう二度と無いのだと。
あの手のひらで髪を梳いて貰える日は、あの少し高い声で名前を呼んで貰える日は、あの唇で首筋に跡を残して貰える日は……

もう二度と来ないのだと。


アレから7年。私は今日やっと、漸く君を失った事を実感して泣いた。

こうやって泣いていても、涙を拭ってくれる君がいなくて
屋久島の時は抱き締めてくれたっけ、って思い出してまた嗚咽がこぼれた。

ねぇ、一人っきりの夜は淋しいよ、湊クン……。



「ソイツ」はどうしようもない人間だった。仕事では事勿れ主義を通し、感情を笑顔の仮面で消して、ただ毎日をクラゲの様に漂って生きている。何時だって「死」について考える。眠る前にはこれで「エンドロール」が流れないかなんていつも考えている。
生き物として生まれながら生きる事を放棄している。神様の失敗作だ。

ただ無機質な画面だけが暗い部屋の中で赤く光っている。
「ソイツ」は今日何度目かの涙を流した。モニタの向こうでも涙がこぼれて、耳元で、すぐ側で其の音が聞こえる。
「会いたいの!」
少女がスピーカ越しに嘆く。耳元だと思ったのは只のヘッドホンで。其れでも叫びは余りに悲痛で。
「会いたいよ……!」
「ソイツ」は、生き物失格は……何度目再生したかももう覚えていないシーンで何処にもいない少女の為に涙を流した。

頬を伝う其れは冷たくて、其れは画面の中に比べてとても現実的。
シャツに染み込む一滴の、命に絶望した今となっては唯一の、熱情の欠片はとても尊く見えて……
只漠然と生きているうちに、感情なんて消えてしまったと思っていたのに。
未だ残っていたのは……消えずに残っていたのは何の為?

死ぬまで生きるだけならミジンコでも出来る。人間らしさってそうじゃないだろう?
何故、人の形をして産まれて来たのかを思い出せ。
クソッタレな世界に背を向けても、真直ぐ走っていれば其れは「前進」だろ?
「ソイツ」の内が訴える。

もう何度目かの彼女の叫び。叶わない願い。
もう何度目かの涙は、其れでも一人の「人間失格」を確かに内から動かした。

そして「ソイツ」は思い出した。だから「ソイツ」は行動を開始した。

「待ってて。君の元へ必ず彼を連れて来てみせるから」

呟いて作戦を考え始める。何処にもいない彼女の涙を止める事だけが目的。彼女の彼の、其の居場所は月よりも星よりも遠く。絶望すら覚える距離。
其れでも涙を、嘆きを、絶望を、止める手段は彼を彼女の元へ返すしかなくて。
武器は手の中で回転するペンだけ。其れでも今の「ソイツ」にとっては之以上無く信頼の置ける武器だ。少なくともコントローラじゃ何も変わらない。

ゲーマーの腕が鳴るじゃないか。この最低の局面で、奮わない奴なんている筈が無いだろう。彼女の前に彼を立たせて、微笑んで「ただいま」と言わせるだけの、史上最高難易度のゲーム。

「ソイツ」は行動を開始した。
たった一人で運命に立ち向かった、何時かの少年の様に。

「ソイツ」はただ、少女が恋をしたが為に不幸になるなんて許せなかったのだ。


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