オリジナルの部屋
キミとカナ
「なぁ」
なんだい? 今、僕は見ての通り忙しいんだよ。つまらない用件なら後に回してくれ。
「ところが残念ながら、つまらない用件じゃないんだな、コレが」
その判断をするのは受け手の僕であってキミじゃない事は馬鹿じゃないんだ、理解しているだろう?
「そう、邪険にしなさんなって。ほら、可愛い顔が台無しだよん?」
茶化さないでくれ。僕が人の美醜に興味が無いのは知っての通りだ。いわんや自分の物なら尚更。
「嘆かわしいねぇ。美とは他の何か……言語であったり信号であったりに変換出来ない数少ない物であるにも関わらず?
それに関心が無いと言うのかい、カナ。損失だよ。コレは一人の高校生の人生にとってとても大きな損失だ。
それをムザムザそのままに見送ったとなっては友人の名折れ、って……聞いてるかな?」
逆の耳から出て行くのを「聞いている」と言って構わないのならば聞いているね。
「つまり、聞いてない、と」
分かったら自分の家に帰ってくれるかな?
「おやおや、酷い言い種だ。これは少しばかり傷付いても仕方が無いとは思わないかい?」
傷口に塩を塗り込まれたくなかったら、今すぐ出て行こうか。
「ふむ。だが、カナにとっては非常に残念なニュースになるのだが、ボクは今夜、この家で夕食を取る事が決定しているのだよ。
無論、カナに誘った記憶は無いだろうし、だからニュースになり得るのだが」
キミの両親は今夜も仕事か。
「だね。全く、あの二人は子供よりも楽しい事が有ると言って憚らない。我が親ながら、ある意味で清々しい。
無論そんな私事でカナの母上に迷惑を掛けるのはボクとしても忍びないが、しかしそれを本心から喜々としてやられては断る事すら出来ない」
今更だな。母は小母さんを慕っているから、その子供であるキミが可愛くて仕方が無いとさ。
「感謝している」
なら、その感情を行動で示したらどうだろう。具体的には台所を手伝って来る事なんだが。
「……ふむ、一理有るねぇ」
なら今すぐにでも行って来ると良い。邪魔が減るとこちらとしても作業が捗って助かる。
「ところで、カナ?」
まだ何か有るのか?
「幼馴染みの手料理にそそられる青い部分は残っているかい?」
よし、出て行け。

……結局、キミは用件を伝えなかったが、一体何をしに部屋へ来たのだろうな。
相変わらず、理解に苦しむ女だよ。



この間、人を好きになったのだが。
「へぇ、驚天動地だよ。カナにも恋愛感情なんてモノが有ったのだね」
僕自身も驚きだった。理性的な人間だと思っていた……が、「つもり」でしかなかったみたいだ。
「いやいや。人を好きになるのは良い事さ。それで?」
自覚した。それだけだ。続きは無い。
「想いを伝えようとは思わなかったのかい?」
その人には恋人が居たよ。傍から見ても仲睦まじいのがありありと分かった。
「なるほどね」
自覚と同時に終わっていた訳だ。全く我ながらタイミングが悪い。
「ふむ、横恋慕ここに極まれりだな」
違いない。
「告白の予定は?」
彼女が幸せな笑顔を失ったらするかも知れない。
「紳士だね。しかし、それではカナの気持ちはどうなる?」
どうなる、とは?
「カナの恋が消化不良で胃に溜まってしまうじゃないか」
喩えが悪い。
「違うのかい?」
違うね。
「詳しく説明をして貰えると助かるんだが」
恋愛感情とはエゴの押売りでは無い。相手の幸せを一番に考えてこその「想い」だ。
自らの「報われたい」という欲求も分からないではない。しかし、それは二番以降だろう。
「君は恋愛にすら無欲だね」
いいや。彼女の幸せには貪欲でありたいと思う。
「見守る恋愛か。非生産的にも程が有ると断じるよ」
恋愛が生殖と直結するのであれば、白雪姫の最後はベッドシーンだろう。
「それは一理有るな」
別物とまでは言わないが、二つ程、間にクッションを置く方が好みだ。
「……それで自己完結かい?」
どうやら認識に差異が有るらしい。
「聞こうじゃないか」
この恋は完結してはいない。続いていく。いつか、彼女を忘れるまで。
「現在進行形で恋愛中だと言いたいのかな?」
ああ。
「それは片思いと言うんだ。知っているかい?」
片思いで構わない。
「それでも彼女が好きなのかな?」
そうなる。
「重症だねぇ」
全くだ。
「ちなみにどんな人だったのか、教えてくれないか。カナが好きになるタイプというのに興味が無い訳じゃない」
忘れた。
「え?」
余り印象に残っていない。だからタイプ等を割り出すだけの情報が無い。
「……まさか、一目惚れだったのかな?」
その十分後に諦めたが、しかし恋だよ。
「十分後という事は、彼氏と一緒の所を見初めたのかな?」
そうだ。彼女が彼に向ける笑顔が素晴らしかった。

「カナは狙い澄ましてバッドタイミングを踏むんだね」



「ボクとカナは親友だ」
何を今更。
「これから先、恋愛関係に発展するかどうかは別にして」
そうだな。有り得ないとは言わない。その可能性は十分有るだろう。
「その関係が友人か恋人か。未来なんて知る由も無いが、しかし」
しかし?
「カナの最期を看取る人間は僕だ」
ボクが先に逝くのを前提で話さないでくれ。
「女性の方が平均寿命は長い。これは統計が示している」
そうかい。それでなくとも乱暴な話だとは思わないか?
「何が?」
その頃のボクに連れ合いがいないとは限らないだろう。
「関係無いね」
本気で言っているのか?
「ああ。カナは僕にとって一番近い人間だ。責任は取って貰わなくては困る」
随分と自分本位で喋るんだな。
「当然さ。こればっかりは誰にも譲れない」
死に水を取るのが、そんなに大切な事か?
「感情的な問題だよ。最期に瞼に焼き付ける顔には、なんとなく意味が有りそうな気がしないかい?」
しないな。
「夢が無いね、カナ」
現実主義者だって自覚は無いが。
「もしも、カナが最期は愛を誓い合った人間に送られたいと、望むならば仕方がない」
優先順位的に友人よりは嫁だろうよ。
「そうか。では、そのポジションを頂くとしよう」
本気か?
「まぁね。これでも僕はカナを非常に気に入っているのだよ?」
そう言われて悪い気はしないが。生憎と、ボクはキミを異性として見た事が無い。
「では今から見てくれ」
流石に今のは冗談だな。
「可愛くないね。普通は慌てふためいてくれる場面だと言うのに」
何年、キミの親友をやってると思っている?
「それもそうか」
ただ、本気と冗談の明確な線引きはまだ出来ない。嫁宣言はどっちだ?
「割と本気さ」
キミはボクを異性として見れるのかい?
「正直に言うと自信は無い。しかし身体的には異性である事に間違いは無いからね。どうとでもなるだろうさ」
投げ槍だな。
「まぁね。しかし、そうでもしないとカナの視界から外れてしまうなら、躊躇いは無い」
そこまで入れ込む様な価値の有る男では無いが。
「カナの性質よりも僕の性質の方がこの問題には根が深い」
割と人見知りする点か。
「それも有る。カナ以外の異性と打ち解けるのは難しいだろうな」
も、ね。まだ、何か?

「ボクはキミが想像している以上に独占欲が強いんだよ。自分のお気に入りの人形を人に渡したくない、子供なのさ」

……言うに事欠いて「人形」は無いだろう。



「暇だ」
帰って自室でなんでもやってくれ。
「それに飽きたから、カナの部屋まで足を運んだ所まで察して貰いたいものだね」
生憎とボクは忙しい。
「また、例の『作業』とやらかい。良い年の若人が有り余る時間をPCに向け続けるのはお世辞にも健康的とは言えないな」
余計なお世話だな。それと健康的である事にメリットを感じない。
「僕達の年齢では健康のありがたみを知るのは難しいか」
だな。暇なら適当に本棚でも漁っていると良い。
「ここに有る物は大体見たんだよ」
再読はまた違った楽しみが有る。
「ネバーエンディングストーリー2か。だが、遠慮する」
そうか。人のベッドでごろごろするな。
「性的な書籍やらは無いのかい?」
突然、何を言い出すかと思えば。
「カナくらいの年齢ならほぼ十割が所持していると聞いたが」
誰から?
「誰だったかな。さて置き。持っていないのかい?」
ベッドの下、奥のカラーボックスに入ってる。
「おや、やけにあっさりと在処を吐くんだね」
別に隠すような物でも無いからな。
「ふむ。羞恥の対象ではない、と?」
キミ相手に羞恥を覚えるのが馬鹿らしい。
「信頼されている、と勝手に取らせて貰う。見ても良いかい?」
構わない。しかし、見終わったら元に戻しておいてくれ。
「分かった」
ああ、先に言っておくが妙な性癖は持っていない。残念だったな。
「つまらないね」
いや、ボクは面白いが。
「何が?」
キミが性的な事に興味を示すと言うのは、実に新鮮だ。
「僕だって同い年だ。そういった諸々に関心が無い方が異常だろう」
確かに。ただ、その感覚に男女の差異が有ると思っていたのでね。
「所詮、ヒトという括りの同じ生き物さ。知っているかい? 三歳児ですら性欲は有るんだよ」
そうなのか。
「性に未分化である頃から。ならば女も男性と同じ様に興味を持ち、欲情もする」
なるほど。ならばボクの偏見か。
「無意識に性に奥手な異性を望んでいるんだろうさ。残念だったね」
残念? 何が?
「僕はいつカナとそういった行為に及んでも困らない。奥手とは縁遠い女さ」
もう少しオブラートに包んで発言したらどうだ?
「勿論、恥じらう演技くらいならしてあげるよ」
最近、この手の話題が続いている気がするんだが、気のせいじゃないな。どうした?

「思春期……いや、発情期だな。欲情してるのさ」



「発情期の少女……流石に自分で美と付けるのは気兼ねするが」
人間は年がら年中発情期だ
「男子のベッドの上で寝転がる女子、というのは俎上の鯉だと思わないかな」
思わないね
「少なくともボクはそんな気分なんだが」
今更だろう。昔からそのベッドは、日中に限って言えば占有率はキミが上だ
「……慣れとは怖いね」
相手がキミじゃなくても、それだけで性的な許可だとは思わない
「脱げば良いのかい?」
短絡的発想じゃないか。勝手にしてくれ。キミが脱衣を始めた時点で僕はリビングへ行く
「逃げるとは男らしくない」
どうもキミと僕の考える男らしさには齟齬が有るようだ
「据えられた膳には箸を付けるのがマナーさ」
僕には選ぶ権利が有ると考えていたのだけどね
「ふむ。この身体ではご不満という事かい。胸か? 尻か?」
性格と僕自身の感情だな
「持って産まれたこの性格には目を瞑ってくれとしか言えないよ、カナ」
これまで通り友人として付き合っていくのなら目を瞑るさ
「その切り返しは卑怯だ。どんな性格がタイプなのかな?」
好きになった相手の性格がタイプじゃないか?
「一理有る」
だろう。恋愛とは理屈では無いらしいから
「ではボクを好きになってくれ」
無茶な願いにも程が無いか?
「一生のお願い権を使用するよ」
何度目だっけな
「十は越えているよ」
未だ有効なんだとしたら、ランプの魔神も形無しだ
「恋する乙女は我が儘が許されるし」
キミのは恋じゃなくて独占欲だろう
「カナが他の異性に奪われるのは我慢出来ないね、確かに」
子供か?
「子供さ」
いや、理屈は出来るが
「恋愛感情は関係を持った後付けで構わないだろ?」
順序は守るべきだね
「どうせ、カナがボク以外と付き合えるワケ無いしねぇ」
確かに自信は無いが、しかし言い切られると僕だって傷付く
「ボクならカナを愛する自信は有るし、愛される自信も有る」
それは性愛ではなく友愛か親愛じゃないのか?
「何か問題でも?」
問題は無い。ただし、僕だって恋愛に憧れる
「だったらボクに恋心を抱きたまえ。万事解決じゃないか」
キミ? 恋というのは選択してするモノじゃないらしいよ
「心配は無用だ。カナ、君に一つ言葉を贈ろう」
ふむ

「人生で起こる全ての出来事は、皿の上でも起こり得る」
料理人でも目指せと?
「今、ボクが転がっているベッドは皿みたいなモノだよね」
キミ、流石に下ネタが過ぎる



「ねぇ、愛ってなんだろ♪」
都市伝説だ
「歌に茶茶を入れないで欲しいな」
それは済まなかった。続けてくれ
「さぁ、愛ってなんだろ♪」
だから都市伝説だ
「カナ?」
無償の愛など存在しないからな。全て自己愛の変則
「何か嫌な事でも有ったのかい?」
いや「ガキが気安く愛を語るんじゃねぇ」という台詞が好きでね
「プラネテス?」
ああ。全編に跨がるテーマが「愛」であるにも関わらずその台詞が幕引だ
「へそ曲がりだねぇ」
いや、アンチテーゼさ。つまり、作者自身が愛を書くには自分は未熟だと
「ハイハイ。カナが漫画好きなのは理解してるからストップ」
人間なんて宗教に狂うか、愛に狂うか、欲に狂うかの三択しか用意されていない
「極論だね」
しかも欲以外の選択肢はまやかしと来る
「宗教がまやかしなのは理解出来るけど?」
性愛、親愛、友愛。愛とは全て冒頭にも言ったが自己愛の屈折だろう?
「カナも随分と屈折している」
違いない。だが、神の正気は証明者がいない。以上、正気と狂気に境目は無いのが現実だ
「愛の話じゃなかった?」
そうだ。愛の話だった。キミ、僕はね。愛を否定しているワケじゃない
「都市伝説化させてたじゃん」
無償の愛など無いという意味だよ
「それはボクからカナへの愛が疑われていると?」
友愛だろう
「未だ、だけどねぃ」
では問うけどね。キミの考える愛とはなんだい?
「質問が抽象的に過ぎるから解答し難いよ」
守りたいは、失っては自分が困ると言い換える事も出来る。大概の「〜したい」は自分本位に置き換えれるだろ?
「じゃ、愛って何?」
思い込み
「ちなみに思い込みで困る人って居るの?」
居ない……と言いたいが、僕みたいな偏屈者が困る
「カナ、それってさ」
ん?
「愛されたい、の裏返し?」
……なるほど。かも知れない
「だったら悩むだけ無駄じゃない。カナにはボクが居る」
僕がキミを愛せる自信が無い
「大丈夫。期待してないから」
……蛋白だね
「違うよ。カナが無償の愛を疑うからさ」
から?
「ボクが見返りを求めない愛し方を教えてあげよう」
よし、服のボタンを外す手を止めろ
「無理」
なら扉の前から退いてくれ
「嫌」
また、このオチかい?
「ラブなんてセックスの綴り間違いなのさ」
文字数から使われてるアルファベットにまで共通項が無い
「『e』が有れば十分なんじゃない?」
だったら、僕は「ヘルプ」と叫ぶね



「チグリス」
ユーフラテス
「夢だけど」
夢じゃなかった
「あべし」
ひでぶ
「……先行交替」
今の、遊びだったのか?
「違った?」
適当に合いの手入れてただけだし
「以心伝心?」
いや、関わってきたメディアが同じだけ
「幼馴染の通い妻って需要有るよ。連日ストップ高」
頼まれて通うならそうだろうさ
「ではボクに家事を頼みたまえよ、カナ」
出て行けとまでは言わない。だから大人しくしてろ
「拒否する」
出て行け
「休みの日に一日中若い男女が部屋に籠ってやる事もやらずだよ?」
どうやら発情期ってのは本当らしいな。最近、性的な発言が多いぞ
「ボクはどうやって好感度を上げれば良いんだい?」
二度言わすな。大人しくしててくれるか
「こうしている事で好感度が上がるとしてだね。しかし実感が欲しいのさ」
キミ、彼氏でも作ったら?
「だから今、頑張っている。ああ、応援は要らないから」
へぇ。一応、彼氏募集とかしてるのか
「どこかにキミの攻略本はないのかな?」
それはどういう意味だい?

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