[携帯モード] [URL送信]
想いは雪溶けのように【後編】
― 一方、こちらはロゼ自室 ―



「くそ…だるくて身体が動かない…」

熱のせいか朦朧とした意識の中でロゼは、そう一人ごちる。
昨日、永久凍峰で意識を失って、そのままユンに抱かれる形で部屋まで運んで貰った。
気がついたらすでに陽が昇っていて、ロゼは自室のベッドに寝かされていた。
幸い、その運んでくれた張本人がこの場に居なくてなによりだとロゼはため息を吐く。
そう思いながらも授業に出なければと身体を起こそうとしたが、腕に上手く力が入らず、そのままベッドに再び沈む。
何とか起き上がっては見たものの、喉は渇いてカラカラ。頭痛はするわ、身体の一部は鈍痛を伴って嫌でも昨日の出来事を彷彿させられる。

(一体どんな顔してあいつに会えってんだ…)

断片的に残っている昨日の記憶の欠片。
あの時だからこそ素直に言えただけであって、きっともう二度と同じことは言えないだろう。
今更思い出すだけでも顔から火が出そうな程恥ずかしいのに、その言葉を伝えた相手にどう接していいのか分らなくてロゼは答えの見つからない気持ちを投げ捨てたくなる。

(お、落ち着け…!昨日の俺はどうかしてたんだ。自分から、あんな事言うなんて…あるわけ無い。)

右手を額に添えながら、昨日の出来事を精一杯否定する。あの時の自分は、自分ではなかった。
ユンから何度か紡がれた、自分のことを好きだと言う言葉。
恋愛経験など皆無に等しい自分にとって、どのように対処していいのか分らなくて。そのまま自分の気持ちを上手く相手に返さぬまま、今に至る。
自分は、本当にユンの事が好きなのか…その答えがうまく昨日までまとまらなかった。
どうして自分のような人間を好きになるのか、とか。
自分のどこが好きなのか、とか。
考え出したら終わらないその先を求めるのが怖くて。
だから知らないフリをしたのかも知れない。
自分の気持ちを偽りたいだけなのかも知れない。

「…アホらし。考えるのやめやめ…寝るか」

色々考えるのが馬鹿らしくなったロゼは、そのまま布団を頭までかぶり眠りにつこうとしたその瞬間。自室の扉がバタンと開け放たれた。

「ロゼ、起きているか?」

(出たよ…今、一番会いたくないヤツが…)

部屋の隅から自分を呼ぶ声に一瞬ビクリとしたが、ロゼは狸寝入りをしてやり過ごそうと決める。
昨日あんな醜態を見せたばかりだと言うのに、どんな顔をして会えば良いのか。
返事をしないロゼが気になったのか、扉の向こうに立っていた人物は扉を閉めてロゼの寝ているベッドへと歩み寄り、そしてそのままベッドへと腰を下ろす。

「ロゼ…?」

囁くように名前を呼ばれる。
その口調はあくまで優しく、いつもの彼が皆の前で喋っているような声色では無く。
自分といる時だけ聞かせてくれる特別な声。
いつも淡々と語る彼の口からは、聞いた事のない言葉。

(やめろ…そんな優しい声で俺に語りかけるな…)

せっかく答えが出ないように、自分を誤魔化そうと眠りに落ちようとしていたのに。
そんな優しくされたら…誤魔化そうとしている自分に罪悪感が芽生えてしまう…。
ぐるぐるとそんな想いを馳せていると、ふぅ…と小さなため息がつかれて。
ギシリ…とベッドが軋む音がした後、ロゼの上半身がフワリと浮いた。

(…な、なん…んぅ…っ!?)

ユンに抱きかかえられたかと思った瞬間、ロゼはワケのわからないままユンによって唇を塞がれる。
重ねられた唇からドロリとした液体が流し込まれ、ロゼは思わず目を見開いてそのまま嚥下してしまう。ロゼは、抵抗するように抱きしめてキスをしているユンの両肩に手を添えて無理矢理引き剥がそうと力を入れれば、あっけなくユンの唇は離れていった。

「おっ、おま…!いい、いきなり何す…っ」
「人がせっかく見舞いに来てやったと言うのに、狸寝入りなぞするからだ」
「―ッ!?」
「その顔では、バレていないと思っていたらしいな」
「うっ、うるさい!!そ、それよりも今、俺に何飲ませやがっ…!?ゴホゴホ…ッ」

咳き込むロゼの背中を、そっと擦りながらユンはクスリと笑う。
抱きしめられながら背中を擦られては、ユンの表情が読めなくて。
自分の心ばかり見透かされているようで、ロゼは少し不満をきながらもそっと瞳を閉じる。
擦られた背中から満たされていくような想いで、そんな不満も弾けて飛んだ。
そっと擦っていた手を離すとユンは再びロゼと向き合い、ジッとロゼを見つめ直すと淡々と語り始めた。

「風邪を拗らせているわりには元気が良いな。それならすぐにでも治りそうだ…」
「ユン…?」
「心配するな。今、お前に飲ませたのは保健室で貰ってきた風邪薬だ。それよりもロゼ、お前はなにかオレに言う事があるのではないか…?」
「なっ、何をだよ…?」
「昨日、お前が気絶する前…オレに伝えてくれた言葉…だ」
「…お、俺なんか言ったか?」
「…お前がそう思うのなら…それで構わん。昨日の出来事は、きっと幻だったのだろう…」
「ぁ…」

(な…んで、お前がそんな…傷ついたような顔…すんだよ…?)

ロゼの一言で、ユンの表情はほんの僅かだが少し切なそうに歪んで。
すぐに元の表情に戻すと、ユンはゆっくりロゼの寝ているベッドから立ちあがり、ぽんぽんとロゼの頭を軽く叩いて踵を返す。

「具合悪いのに邪魔したな」
「ま、待て…!」

そのまま部屋から出て行こうとするユンの背中を、ロゼは引きとめようと慌てて右手を伸ばし、服の裾を掴む。

「…なんだ?」
「あ…そ、の……」
「…薬も飲ませたし、これ以上オレがここに留まる理由は無い。…お前にとって、昨日の出来事は夢か幻だったのだろう?ならば、これ以上オレに変な期待を持たせるな、抱かせるな。これ以上、オレに惨めな思いをさせないでくれ…」

僅かだけあわせられた二人の視線は、ユンが顔を背けてしまう事ですぐに外される。
一瞬だけ見せたその表情は、何処か寂しげで悲しそうで…。
ロゼは、胸の辺りがズキリと傷んだ。

(俺が…俺が、昨日の出来事を無かった事にしようとしてるからなのか?俺が…ユンを苦しめている…?)

熱を帯びた頭に思考を巡らせて、ロゼは自分の気持ちを整理し始める。
昨日の自分の一言で、ユンに期待を持たせたのは…抱かせたのは他でも無い、己自身だ。

(…こんな時までも素直になれない自分の気持ちが、嫌になってくるな)

「…もうオレは行くぞ。悪いがこれ以上、今はお前の傍に居たくないのでな」
「まっ、待て…!」

ロゼは慌てて掴んでいた服を離し、思い切りユンの腰に両腕を回してしがみつき、背中に顔を埋める。
そんなロゼに首だけ僅かに背後にいるであろうロゼに向けると、一つため息をついた。

「もう待った。いい加減にしないと、オレも怒るぞ?」
「そのままで良いから聞いてくれ…絶対にこっち向くな!」
「注文の多いヤツだな…」
「う、うるさいっ!」
「わかったわかった。お前の方は見ない。これで良いだろう…?」
「ぅ…」

(やっ、やっぱり改めて言うのは…かなり抵抗が…)

「なんだ、まだ躊躇っているのか?…あと三秒で言わなければ、オレは帰るぞ。三………」

(おっ、おい!何勝手に決めて…)

「二……」

(待てよ、まだ心の準備ってモンが…っ!)

「一…」

(あーっ!くそ…っ!!もう、こうなりゃ自棄だ!)

「す……」
「―聞こえんな。もっと大きな声で、はっきりと言ってくれないか」
「くそっ、悪かったな!素直に言えない性格で…ッ!何だよ!昨日言った俺の言葉、ちゃんと聞いていたんだろ!?聞いていたんなら同じ事、二度も言わせんな…ッ…んぅ!?」

まくし立てるように、叫ぶように伝えたその想いは。
最後まで言う前に、ユンの唇によって吸い取られた。
噛み付くような、自分の言葉を全て吸い取っていくようなキスに、ロゼはあまりの苦しさに目を閉じて腕に力を込める。
その腕に応えるかのように、ユンは両手でロゼの頬を包み込み逃れられないように顔を固定し、己の舌をねじ込み蹂躙する。

「…ん…」
「ロゼ…」

ようやく口を解放されたロゼは、そのまま上半身をユンに抱きしめられたまま、くたりと身体から力が抜ける。
今のキスで、自分の体力を全てもっていかれたかのように感じた。
大切なものを離さないとでも言うように、ユンはロゼを抱きしめたままそのままベッドへと寝かせて己はその上に組み敷くように乗りかかる。
唐突なキスのおかげで思考がぼやけているロゼは、トロン…とした瞳でユンを見上げて、次の瞬間凍りついた。

「…お前の想い、しかと聞かせてもらった。これで晴れてお互いに想いあっていると言う事がわかった」
「ユ、ユン…?」
「…改めてお前を抱きたい…ダメか?」
「…ぇ"?!」
「それに、風邪をひいた時は、汗を沢山かけば治るというのを聞いた事がるしな。丁度いいと思うが?」
「いっ、いやいや待てまて!!風邪の時は、身体を温かくしてだな…」
「暖かく=運動すれば身体も温まるだろ。なら、何も問題ないだろ?」
「………」

ロゼはユンの言葉を聞いて頭痛が酷くなるのを覚えた。思わず右手を額にあててグラリと眩暈を起こす。
どうしてこうもこの男は、いらないであろう余分な知識が豊富なのだろうか?とか、その知識は一体どこの誰から教えてもらったモノなのだろうか?とか、その知識のおかげで、いらぬ被害を被っているのは他でも無い自分なんだが…と、思わず言いたくなってしまう。
呆れた表情でユンを見つめていると、いつのまにかパジャマのボタンはご丁寧に全て外され胸元がすべて肌蹴させられていた。

「おっ、おい…!?な、なにして…!」
「今いっただろう。お前を抱きたいと言う想いと、お前を早く具合悪いのから治してやりたい。…何か不服か?」
「ありまくりだ!」
「大丈夫だ。そんな思いもわからなくなるように、今度はちゃんと優しくしてやる。先日はあのような場所だったから、お前にはかなり負担がかかってしまっただろうしな」
「――っ!」

露骨に言葉にされて、ロゼは言葉を失った。
断片的に残った記憶が、ユンのたった一言で鮮明に蘇るようでロゼの頬はみるみる赤く染まっていく。
そんなロゼの表情を見て理解したのか、ユンはニヤリと笑うとそのまま顔をロゼの胸元に埋めて、淡く色づく右の乳首へとキスを落とす。

「ん…」

唐突な胸への刺激にロゼは小さく声を漏らす。
嫌ならユンを跳ね除ければいいのに、それすら出来ずにロゼはユンの揺れる髪を見つめる事しか出来なくて。
…力が入らないのもあるけれど、それよりも素直になれた自分の気持ちの方が何だか信じられなくて。
拒絶する事は簡単だけれど、気持ちを受け入れると言うことは至極難しい。少なくともロゼにとっては…。

「感じているなら素直に声を出せ。オレはお前が、オレの手によって喘いでいる姿が見たいからな」
「ふざけ…あぁ…ッ!」
「この状況でふざけているように見えるのか?」

否定の声を上げようとすると、それを拒むかのようにユンはロゼの突起に軽く歯を立て、ペロリと舌先で舐めまわす。
ぷつんと立ち上り赤く色づく突起を見ながらユンは顔を上げ、クスリと笑う。

「まるで何かの果実のように熟れてきたな。片方だけでは見栄えが悪いだろう…もう一方も同じにしてやろう」
「ぅ…あ…やっ、やめ…」
「オレを拒むな。つい先ほどオレを受け入れてくれたのは他でも無い、お前自身だろう?」
「そ、そんな事…言われて…も。お、俺…一応病人なんだが…」
「今くらい自分に素直なってみろ。何も日常ずっと素直になれとは言わん。オレといる時くらい僅かでもかまわん」
「ぅ…」

優しく微笑まれると、その笑顔に心も溶かされそうになる。
このまま溶かされてお互いに混じあわれる事が出来れば、どんなに楽になれるのだろうか。
ぼんやりとそう考えながら、ロゼは無意識に両腕をユンの腰に回して自ら抱きしめる。言葉に出来ないのなら、態度で示せば良い…そんな気がした。

「フッ…」
「…ん」

再び唇を寄せ合い、ロゼはユンの舌を素直に自身の咥内に受け入れる。
はじめは恐る恐る舌を絡めていたロゼだったが、次第に自分からもユンの熱い舌に応えるように絡めて合わせていく。
暫く蹂躙した後ユンはロゼの口を解放し、そのまま首筋から鎖骨に唇を落としていった。
忙しなく指先が、ロゼの肌蹴られたパジャマをめくり、露になった素肌へとキスを落としていく。

「ひっ…ん、や…ぁ」

ロゼはビクンと身体を跳ね上げ、逃げ惑うようにベッドの上で身体を捩る。しかし、抵抗して身体を捻る度に違う場所に口付けられるから、そこから徐々に甘い痺れに支配されていく。

「あっ、あぁ…ん」

唇を落とした場所に口付けただけでなく、時々ネロリとザラついた舌で舐め上げられる感触。それが堪らなくロゼを淫らな気持ちにさせて、無意識に腰を揺らめかせる。次第に硬く張りつめていくロゼ自身を、早く触って欲しくて堪らない。未だ脱がされることの無いズボンは、無残にも下着の中で勃ちあがり、目視でもわかるくらい隆起してしまっている。

「は…ぁ…あっ…ぁ…」

じわりじわりと自身に熱を持ってきて辛くて仕方が無いのに、ユンは一向にズボンを脱がせてくれる気配すらなくて。
まるで意地悪するかのように、なおも執拗に胸の赤く色づく粒に舌を這わす。キャンディを口に含んで舌で絡めとり、溶かすように熱い唾液で包みこみながら。

「ゆ…ん…っ」

堪えきれずにロゼは彼の名前を呼ぶ。胸からダイレクトに伝わる快感の疼きが、ロゼの声を舌足らずで哀願するかのような響きに変える。

「ロゼ…」

掠れるような、囁くような声で名前を呼ばれてドキリとした。
誰にも聞かせたことの無い、自分にだけ囁かれる言葉。じわじわと耳から侵食されて、甘く身体中を駆け巡る。
乳首を舐めながらユンは、快感に溺れかけているロゼの不意をつくかのようにそこに歯を立て、グミを齧るみたいに上に引っ張るものだから、ピリピリと電流が流れるかのようにロゼの背筋を貫いた。

「あ、あぁッ…あっ…」
「ロゼ…可愛いな…」

甘い喘ぎを漏らしたロゼを見て満足したのか、ユンはようやくまだ脱がされていないロゼのズボンに手をかける。指をしなやかに動かして、するりとズボンと下着を脱がせ、下半身を露にさせて。
やっと窮屈な下着の中から解放されたロゼ自身が、勢いよくそそり立ち外気に触れる。さっきから蜜を滴らせている自身は、とろとろとロゼ自身を伝って股間に零れ落ちる。ユンの手に握りこまれたロゼ自身はくち、くちっ、と粘着質な音を立てると、彼の指使いに反応してますます膨らみ、先端から白濁した液体を吐き出していく。
キュッと双球を揉み込まれ、そろりと裏側の敏感な場所を指でなぞられて。そしてもう一度手のひら全体で自身を包み込まれ、とろとろと蜜を流している先端を親指でグリッと押し潰すように弄られると、ロゼの身体は痙攣したように動いてばかりで。

「凄いな…。ちょっと弄るだけでココ、もうドロドロだ。…もしかして一人でしたことないのか?」
「…ッ!?」

ユンの言葉に、思わずロゼは目を見開いて反応してしまう。
ロゼ自身、人を好きになったり、想う相手がいなかったのも確かで。想う相手がいないのに、こんな行為なんて思いつくことすらなくて…。
生理現象でこうなる事はあるとは知ってはいたけれど、特にどうとも思わなかった。

「どうやらその様子だと、自分でシたことすら無いようだな。我慢すると身体に良くないぞ?…と、言う事は処理してないワケなのだから、朝起きると夢精していたんじゃないのか?」
「どっ、ど…してソレを知って…!?」

ロゼはそう答えた後、慌てて口を両手で塞ぐ。塞いだところで、今の発言は取り消せるワケでも無く、ばっちりユンの耳に入ってしまったのには変わりない。

「フッ…。これも生きてきた経験上の知識ではあるがな。自分でシた事すら無いのならば、今日は特別にオレが気持ち良くしてやろう。…いつかお前からもっとシて欲しいと強請ってくるように…な」
「なっ…!?」

不敵な表情を浮かべ、ロゼが絶句している間にユンは胸元から顔を上げて素早くロゼの勃ちあがった自身へと口を寄せ、蜜を溢れさせている先端へと軽くキスを落とした後、そのままロゼ自身をスッポリと己の咥内へと咥え込む。
手始めに軽く裏筋に舌を這わし、ゆるゆると弄びながらロゼの良い場所を探すかのように。
時折ロゼが身体をビクリと反応する箇所を、執拗に舐め回して弄る。身体が反応すると言うことは、それだけ自分の愛撫を感じ取ってくれているのだと言う証なのだ。

「あ…は…ぁっ」

次第に艶っぽい声をあげ始めたロゼを見て、ユンは心が満たされていくのを感じた。
こんなにも何かに夢中になるのは、少なくとも自分の中では珍しい事で。
目の前の彼を自分だけの物にしたいと思う反面、大切にしてやりたいと思う気持ちもあって…。
しかし、その考えは次の瞬間弾けて飛んだ。

「あっ…んあ…ぁ…!」
「ッ…!」

ロゼ自身が僅かに膨れ上がったのと同時に、その先端からは熱い液体ビュクッと迸り、ユンの咥内を満たす。
特有の青臭さとドロリとした感触で、ロゼが己の口淫でイッてしまった事が理解できた。
ユンは、その吐き出された体液を苦もせずにゴクリと嚥下する。愛しい人が自分に感じてくれたと言う証でもあり、心が満たされる。

「はぁ、はぁ…ッ」
「気持ちよかったか?」
「…っ!」
「そんな涙目で睨まれても全然怖くも何ともないぞ。…寧ろ、挑発的に煽っているとしか思えん」
「なっ…!?」
「冗談だ。さて…お前も一度イッたようだし、そろそろオレも気持ち良くならせてもらおうか?」
「ぇ…」
「そんな驚いた顔をするな。大丈夫だ、先日のように慣らさずに無理矢理挿れたりはしない。前も言ったかも知れないが、オレはお前を傷つけたいワケではない。お前と…」
「ユン…?」
「…お前と、一つになりたい…ただ、それだけだ」
「…ぁ」

誰かを想う気持ちなんて知らなくて。
けれど、目の前にいる彼は、こんな自分だけれどそれだけ切に想ってくれていると言う事実が何よりも心動かされる。
そんな彼に応えたくて…ロゼは自分の意思で今度こそ頷いた。

「ロゼ…」

名前と共に囁かれる甘い言葉。
『好きだ』ではなく『愛している』と。
出会った頃のユンは、冷静で何でもそつなくこなすただのマナだと思っていた。
けれど、次第に気苦労している姿や、小さな子供に振り回されて慌てている姿を見て…何だか可愛い所もあるんだなとも思えてきて。
そして…気がつけば、いつも彼の背中を追っていた。アルバイトを一緒にこなす時も、授業の課題を手伝って貰った時も。
今思い起こせば、自分では無意識だったのかも知れない。
ぼんやりとそう考えていると、不意に違和感を感じた。
今まで触られていた場所ではなく、さらにその奥…後孔へと指を這わされて、ロゼは思わず身体を逃げるようにずらす。

「ユッ、ユン…!?」
「逃げるな。オレを受け入れてくれるのだろう?お前はさっき自らの意思で頷いた。だから…先日はお前が途中で気を失ってしまったから最後まで出来なかったが、今日こそはココでオレを受け入れて貰うぞ」
「う…ぅっ」
どう答えれば良いのかわからずに組み敷かれたまま所在無くしているロゼにユンは、大丈夫だと小さく語りかけそっと髪を撫でてやる。少しでもロゼの不安や負担を少なくしてやりたいと言うユンの気遣いが、ロゼは何よりも嬉しかった。

「……い」
「ん?」
「受け入れてやっても…良い…」
「ロゼ…」
「そっ、そのかわり…ッ」
「そのかわり?」
「いっ、痛くはするな…!あんな、辛い思いをするのはもう…嫌だからな…!」
「あぁ…わかった。約束しよう」

真っ赤になりながら恥ずかしいそうに言うロゼを見て、ユンは心底可愛いと思った。普段では決して見せないような彼の色んな表情を、自分にだけ見せてくれると言う現実が何よりも嬉しくて。
そんな彼を見てユンはふわりと微笑むと、宥めるようにロゼの頬にキスを落とす。

「ん…」

キスがくすぐったいのか、ロゼは軽くみじろいて。それでも逃げないように、縋りつける場所を探してシーツを掴む。
そんなロゼを、優しく見守りながらユンは一度身体を起こし、ズボンのポケットから小さな小瓶を取り出すと蓋を開けて中の液体を右手に絡ませる。

「そ…れは…?」
「これか?これは、先日お前があまりにも辛そうだったからな。とあるルートから手に入れたモノだ。…まぁ、簡単に言うと潤滑油といったところか」
「潤滑…油?」
「書いて字の如く…だな。コレを使ってお前のココを慣らすんだ」
「なっ…!?」
「今更嫌がっても止めてやらんぞ。今日はもうお前の意思も聞いたことだしな」
「そっ、それは…」

何とかいい訳を探そうと、ロゼがあぐねいている隙にユンは再びロゼの下肢に顔を埋め、素早く手に絡ませた油で蕾の入り口を擦る。
閉ざされたままの蕾は、開くことなくユンの指を受け入れるのを拒絶している。

「やっ、やめ…!」
「往生際が悪いぞ。そこまで否定されると、さすがのオレも少々傷つく…」
「あ…悪ぃ…って、んあ…ぁっ!?」

ロゼの隙をついて、ユンは頑なに閉じている蕾を半ば無理矢理こじ開けるようにして指を一本滑りこませた。潤滑油のおかげで、先日よりは楽に入ったものの、指を入れられているロゼからは苦悶の声があがる。

「うあ…ぁ…」
「力を入れるな。身体の力を抜いて…そうだ。ゆっくり大きく深呼吸をしてみろ」
「はぁ…ふっ…ぁ」
「いい子だ…ゆっくり指を動かすからな。辛かったら言うんだぞ」
「やっ…あぁ…!」

一度奥まで埋められた指を、ズルリと一旦引き抜いて再びゆっくりとぷちゅり、と埋め込んでいく。慣れない行為にどうしたらいいのか判らないロゼは、今まで縋り付いていたシーツを思い切り握り締め、排泄感にも似た感覚に眩暈を覚えた。

「ロゼ…そんなに握ったら痛いだろう?辛いなら言えと言ったのに、お前というヤツは…。ほら、辛くて堪らないのならせめてオレに縋りつけ。その方がオレとしても嬉しいからな」
「ひぁ…っ、は…ぁん」

指の本数を増やしロゼの後孔へ這わせて抽挿させたまま、ユンは身体を起こしてロゼの胸元まで身体を移動させ両手を自分の背中に回すように片手を使い、背中にしがみ付かせる。ようやく安心して縋りつけれる場所を貰ってホッとしたのか、ロゼは瞳を閉じて素直にユンの胸元に顔を寄せた。

「…ン…ユン…」
「あぁ。オレはちゃんとここに居る。お前を置いて何処にもいったりはしない…。だから、安心して身を委ねれば良い…」
「う…うぁ…」

その言葉を聞いて、ロゼは思わず涙を零した。
目の前の彼は、自分の心を見透かす事ができるのだろうか?とか、どうして何処にも行ったりしないだなんて約束できるんだ?とか…。もう、霞のかかりかけた思考では、それも上手く理解できなくて…。
でも、その言葉をかけられただけで、心の何処かで安心感を手に入れてしまった自分が居るのも事実で。
だからだろうか。そんな彼を見ていて、自分も素直に身を委ねてみようと思ったのは…。

(本当に…本当にお前は、あの日のマナとは違うのか…?俺を…置いていったりしないのか…?)

「っあ…!?」
「ココか…」
「ん…ぁ…な、なに…?」
「お前のイイ所…だ。痛みだけを与えても、それはお互いに良い物でもないしな。どうせ抱きあうならば、お前にも気持ち良くなってもらいたい…。ただでさえ男の身でオレを受け入れてくれるのだしな」
「さわ…ッ、触るな…!やぁ…あぁんっ!」
「触るなと言われると余計に触りたくなるのが人情と言うモノだ。それに…」
「くっ…あぁ…ん!」
「オレの愛撫に感じてくれているお前を見ていると…こっちもあまり持たん」
「そ…なこと…言ったっ…て」
「だいぶ解れてきたな…もう、あまり痛みは感じないだろう?」
「……」

何だか答えるのが恥ずかしいのか、ロゼは小さく頷く。
てっきり彼の性格上、答えてくれないと思っていただけに、その仕草が可愛くて堪らなくて。愛しいと言う事と、少しでも不安を取り除く為に、ユンは宥めるようにロゼの頬にキスを数回落として。そして熱く昂ぶった己自身をズボンから取り出して、これから受け入れてくれるであろうロゼの後孔に押し当てる。

「…っ!?」
「大丈夫だ、怖くない。いくぞ…」

その問いかけに、ロゼは無言で頷いて。ユンはゆっくりと己を埋め込んだ。

「くっ…ああぁ!い、痛…!」
「…ッ!ロゼ、辛かったらオレの背中に爪をたててもかまわん。だから、もう少しだけ我慢してくれないか…?」
「う…ぅ…っ」

先日抱かれた時よりも、潤滑油のおかげなのか痛みはそれほど酷くは無い。
辛いのは自分だけじゃ無い筈なのに、今自分を抱いているであろう男は自分のことばかり心配してくれる。その気持ちが…思いやりが嬉しくて堪らなかった。
ズズッ…と、媚肉をかきわけてユンは己自身を最後まで挿入すると、左手でロゼの頭を優しく撫でてくれた。それは、まるで小さな子供によく出来ましたと褒めるような感じで、ロゼは何だか恥ずかしくて。それを感づかれるのが悔しかったのか、ごまかすかのようにユンから視線を反らす。

「どうした、ロゼ?もしかして、照れてるのか…?」
「うっ、うるさい…!余計な事言うなっ!!」
「何故怒る?オレは、そんなお前の一面が見れて嬉しいくらいなのだが…」
「ひっ…あぁ…ん!」

正上位の体制のまま、ユンは悪態をつくロゼを下から突き上げる。その度、結合部からはぷちゅ、くちっ、っと潤滑油があふれ出す。痛みで萎えてしまったロゼ自身にも、右手を添えて指を絡めて少しでも快楽が味わえるように強弱をつけて扱いてやれば。次第にロゼ自身が、勃ちあがり、今にもイキそうな位に膨れ上がる。

「ロゼ…聞こえるか?お前の出した、厭らしい蜜の音が…。透明だったモノが、今は少し白く濁ってきてるぞ…」
「やっ…ぁ…ん!」

風邪を引いているせいなのか、それともユンから与えられる快感のせいなのか。身体が芯から熱くなり、この熱を解放して欲しいと切に願う。
そんな思いを他所に、ユンの卑猥な言葉はロゼをビクリと反応させる。そのせいで自分の中にいるユン自身をキュッと締め付けて、貪欲にもっともっとと奥に導くように収縮させて。早くこの熱を解放させたくて、ロゼは快楽の波に抗えなかった。

「…ッ!ロゼ…そんな急に締め付けるな…!こっちが…持たな…」
「あ…ぁ…!」

始めは異物感と喪失感で痛くて気持ち悪かっただけなのに、今はそれすら通り越して気持ち良い。快楽の波に飲まれながらもロゼは、一番イイ所を何度も穿たれて、痺れるような電流が背筋を駆け抜け、ユンの引き締まった腹部に精液を吐き出して。
それから自分の中に熱いモノが放たれたかと感じながら、ロゼはゆっくりと意識を手放した…。

































― 翌日 ―

「で…?」
「だから、悪かったと言っている」

翌朝、ロゼは目を覚ますのと同時に、身体に異変を感じて身体を起こそうとしたのだが…。
見事に力が入らずに、そのままベッドから転げ落ちて今に至る。
原因は言わずとも知れている。全ての原因は他ならぬ、目の前で甲斐甲斐しく自分の世話をしてくれているユンだ。

(雰囲気に流されかけたってのもあるが、案の定風邪が悪化するとは…。正直自分でもバカだと思ってはいるが…)

『汗をかけば風邪など治る』ハズも無く。ロゼは、ご丁寧にも風邪を悪化させてベッドで苦しそうに原因を作った男を睨んでいる。頭痛は昨日よりも酷くなっているし、おまけに喉も痛い。そして、風邪ではない症状までもがロゼを苦しめているのは言うまでも無く…。

(もう二度とこんなヤツに抱かれるものか…ッ!)

下半身が痛いし重くてだるい。昨日、たった一回の行為だけでココまで辛くなるとは思ってもいなく、ロゼはそう決意する。
今思い出すだけでも、恥ずかしさで顔が熱くなる。風邪のせいで熱っぽいせいもあるが、今は熱があって頬が赤くなっていてもユンにバレていなくて良かったと、ロゼは心の底から安心した。

「む。先ほどより顔が赤いな…熱が上がり始めたか?待ってろ、今タオルを変えてやろう」
「だっ、大丈夫だからあんま近づくな…!」
「何故だ?オレは自分のせいだからと言うのもあるが、お前のことを大事に思っているのだからいいだろう?それに…お前もオレに自分の気持ちを言ってくれただろう」
「わーっ!!もう良いッ!それ以上言うな!」

そんなやりとりをしていると、突然ノックも無しにロゼの部屋のドアがエトによってバタンと開け放たれる。

「やっほー。ロゼ、元気〜?」
「なんだ、お前か…」
「なんだとは酷いなぁ〜。お見舞いも兼ねてグンナル先生から伝言を預かってきたのに〜」
「伝言?」
「うん。『二日も続けて授業を休むとは、ひ弱な身体でけしからん!本日より二日間の間に、永久凍峰へ行って妙薬ラディッシュを十本採取してこい!!』だってさ。やー、具合悪くて寝込んでいる病人にも容赦ないよねー、先生。あ、後ね。今日のロゼ、何だかいつもと雰囲気が違うね。風邪のせいかなー?何だか前より表情が柔らかくなってるように見えるよ」

「ぇ…?」

あははと笑いながらエトは、持ってきたお見舞い用の果物をユンに手渡し、一言お大事にねと言って部屋を出て行った。
ユンは受け取った果物をロゼの元まで運び、ベッドに腰掛ける。

「…何か食べたい物はあるか?」
「……」

ロゼは無言で小さく首を横に振る。
エトから告げられた伝言が、思いのほか効いているようだ。ロゼの視線は、天井に向けられたまま動かない。

「…仕方ない。お前の変わりにオレが採りに行ってきてやろう」
「え…?」
「元々お前が風邪をこじらせたのもオレだしな。そして悪化させたのもオレだ。それならば責任を取るのは当たり前だろう」
「……」
「心配いらん。オレ一人でなら一日もかからん。お前は身体を暖かくして休んでいろ」

ベッドから立ち上がり、手近にあるテーブルの上に貰った果物のカゴを置くとユンは部屋から立ち去ろうとロゼから離れる。その背中を見て、ロゼは無意識にユンの服を掴んでいた。

「ロゼ…?」
「ぁ…」
「なんだ?何か用事があるのなら、帰ってきてからでも構わんだろう?」
「や…そうじゃなくてだ…な」
「?」

その後が言葉にならない。
病気の時ほど、心細くなると聞いたことはあるけれど。まさか今の自分がそんな心境だとは言葉に出来るハズもなく…。どう切り出していいのか判らずに、ロゼはユンの服を掴むことしかできずにいると、ふわりと優しく頭に手を乗せられて撫でられた。

「おっ、おい…!?」
「お前と言うヤツは…本当に素直になれんヤツなのだな。言いたい事はハッキリ言わんと相手に伝わらんぞ?」
「…べ、別に言いたい事なんて」
「では、何故オレの服を掴んだ?お前は大人しく寝ていればいいだけだろう」
「…それは」
「それは?」
「…ッ!や、やっぱ何でもない!とにかく!!ラディッシュは自分で採りに行くから放っておいてくれ…!」

そうまくし立てるように怒鳴ると、今の顔を見られたく無い一心でロゼは布団を頭から被る。自分が伝えたい言葉を口にする事が上手くできずに、自己嫌悪に陥るのも何だか情けなくていたたまれない。

「…傍にいてやる」
「…!?」

布団越しに聞こえた言葉は、何よりも優しくて。
自分の気持ちをわかってくれようとしているユンに、ロゼは思わずドキリとしてしまう。
自分の想いを溶かしてくれるように。
言葉で無くとも、気持ちは伝わるのだと。
それなのに、自分は相手の事を理解せずにいた事が何よりも恥ずかしくて情けない。

「身体を休めて、明日には体調が良くなったのなら一緒に採りに行けばいい。そうすれば、お前がサボったワケでも無いと言えるだろう?」
「……」
「それに、また遭難すれば先日のように出来るしな」
「バッ、馬鹿なこと言うな!?」
「やっと顔を見せたな。そうだ、それで良い…それが一番お前らしいぞ」
「なっ…な…!!」

クスクスと笑いを零すユンを見てロゼは最初こそ怒りを露にしたが、それが自分を想ってやってくれたのだとわかって。
ロゼはそのままベッドから身体を起こすと、一言照れくさそうに言葉を紡ぐ。

「ありがとうな…」

今自分に出来る、精一杯の自己表現。
『ありがとう』
この一言を言うだけなのに、妙に照れくさかったけれど。
その一言で、自分の想いが通じたようでロゼは嬉しかった。

「あぁ…お前の気持ち、確かに受け取った」

ふわりと笑うとユンはロゼに歩み寄り、そのままそっと口付けを交わしたのだった…




END


+++あとがき+++

『無駄な知識と被害者と』の続編でしたー!
なんか…書いててぐるぐるぐるぐる…orz
エロシーンもそんな過激に書けず、あえなくそのままラブエンドに入ってしまったのが悔しい限りでございます よ!(なら書き直せ)
無理です。何度も読み返して書き直したんですから…(泣)つーか、『無駄な〜』を改めて読み返すと…凄い羞恥心に襲われるんですが…っ!!け、消してもいいですか…っ!?(滝汗)文章力無いのは、わかってはいるんですが…めちゃくちゃ恥ずかしくてたまりません…!エロシーンなんてもう二度と読み返したくないほどに…っ!(え)

と、とりあえずラブいエンドに仕上げました。
ユンが中途半端で可哀想だったので…(笑)前作では挿れただけでロゼ、気を失ってしまいましたからね…。少しくらい美味しい思いをしてもバチはあたらんでしょうよ!(力説)風邪引いたのはお約束ってワケでv甲斐甲斐しく世話させようとしたのに、この二人だとなんだか無理っぽい雰囲気でございますよ(笑)ロゼが素直になってくれないなってくれない。ロゼに対するグンちゃんの罰はオマケですv(笑)また二人で行って遭難してエッチしてくるといいよ…!ロゼ、可哀想だけど頑張って…!(ええぇ)


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!