TO:ゆー いまどこ? 何してんの? TO:ゆーま がっこ。委員会決めのまっただなか。 白い封筒がパタパタ羽ばたきながら飛んでいく。ケータイの画面に表示されたそれを由布は半眼で見つめた。どうせメールはすぐ返ってくる。暇人ゆーまめ、と小さく毒づくと聞いていたかのように青白い光が灯った。 TO:ゆー ゆーは何の委員会やる? TO:ゆーま なんにもやりたくない。 TO:ゆー そんなこと言わないでさ。何かやろーよ。 やり取りしている間に聞こえてきた情報を整理すると、どうやら美化委員と花壇委員以外はみんな決まったようだ。黒板には新しくクラスメイトになった子達の苗字がひらがなで書かれていた。由布が思うに、丸文字と黄色いチョークの組み合わせは最強に目に痛い。 先に決まった生徒委員が前で司会をしている。二つ空所がある黒板を背にして、片手に先生から渡された生徒名簿、もう片手に黄色いチョーク。まだどこの委員会にも入ってない人はー……ナントカさんと、ナントカさんと、ゆー。 正直ナントカさんの部分は聞いちゃいなかった。耳に入ったのは外国に行っても問題なく通じるように命名された、自分の名前。彼女の言う「ゆー」はyouの発音によく似ていた。それで、ここで英語? と思いつつよくよく生徒委員を見れば、あらま去年から引き続き同じクラスの友人。明るくて誰とでも話が合わせられて気配りも出来る、そんなひと。 TO:ゆーま ……そんなこといって、花壇が心配なだけじゃないの? 開けっ放しのケータイを机の上に置き、何故か音のしない教室で由布は手を挙げた。あたし、花壇委員やります。 ちょっとだけざわついた周囲を生徒委員の彼女が穏やかに、何かあるなら今直接言ってね、と宥めて静かにさせた。かといって対抗馬が現れるわけでもなく、由布はすんなり花壇委員に決定。そこから後は興味がなかったから聞いてない。 携帯に目を戻すと新着メールがあって、当然ゆーまからで、内容もだいたい予想していたものだった。 TO:ゆー お願いできない? TO:ゆーま だろーと思った。なったよ、花壇委員。 ゆーまは花壇委員だった。名前だけの幽霊委員になりやすい花壇委員の中でも、本気で花を愛してちゃんと仕事をこなす少数派の一人。二年生には委員長になるだろうと推測していたのは多分、幼馴染みの由布だけじゃない。 由布は委員長になる気なんかさらさらないけど、なれないゆーまの代わりに、ゆーまの愛した花壇を守るくらいはしてあげても良いと思った。土いじりなら植物相手だし、気も楽だし。 TO:ゆー ありがとう! TO:ゆーま じゃー今度アイスおごって。 TO:ゆー ごめん、そりゃ無理だ。 だろうな。由布もそれは知っていて打ち込んだんだから。 残り一人の美化委員はじゃんけんで決めたようだ。負けた子の苗字を生徒委員が黒板に書いたところでロングホームルームが終わった。新学期が始まったばかりの今日は午前授業、さっきのが四時間目、ホームルームは委員会決めの前に終了、つまりこのまま帰っても良し。三時間目が終ったところでまとめておいた鞄を持ち、ぴゅーんと飛び出そうとした。 ゆー、委員会のやつ名簿に反映させるの手伝ってくれる? これがなければ。 TO:ゆーま こっちもごめん。返事と会いに行くの遅れる。 TO:ゆー 気長に待ってるよ。 生徒委員の彼女は由布に黒板の内容を読み上げるのと名簿に書き込むののどっちが良いか選ばせ、由布は書き込む方を選んだ。まだ人が沢山いる教室で声を出すなんてまっぴらだ。 有能で、名簿への反映なんか立候補を待つ間にちゃちゃっとやっちゃえる彼女は、わざと由布のためにこの仕事を残していたんだろう。厚生委員、ナントカ。広報委員、ナントカ。書いていくとクラスの構成が、黒板に貼り出された名簿を全く見ていなかった由布にも何となく分かる。幾つか知っている名前もあって、でも由布自身とは何の関係もない人だ。何故だろうと思ったら、そう、ゆーまの口から友人の名前としてそれが出ていた。ゆーまもこのクラスだったら良かったのに。 仕事を終えて帰ろうとすると、この後職員室に行かなきゃいけないらしい彼女に、無理しちゃダメだよ、と言われた。 気遣いはありがたいけどまだまだだ。由布は全然無理なんかしていない。 彼女と別れてすぐ、由布はケータイを開けてゆーま宛てにメールを打った。ロッカー開けて靴履き替えてバレエシューズ風の上履きを戻して、くらいイマドキの学生なら片手で出来る。強いて言うなら、サイドの髪が落ちてくるのが防げなくて邪魔なだけ。そろそろ茶髪から黒に戻そうか。 TO:ゆーま 今からそっち行く。 TO:ゆー 分かった。 TO:ゆーま 何か欲しいものは? TO:ゆー ゆーにちゅーして欲しい。 TO:ゆーま ふざけんなバカ 2011/04/12 投稿 |