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さくら、ふるふる

 桜の木の下には、死体がある。
 そう言ったのは誰だったか知らないし知る必要もないけど、それは納得出来た。

 ひらひら、落ちる桜色。

 時折吹く強い風は、ざあっと音を立てて大木を揺らす。
 その下、規則的に揺れるブランコ。

 錆びたそれは動くたびに軋み、街灯に照らし出された彼の影も一緒に動く。

 放り出された長い足。
 白い花びらが所々、彼の体に、髪に付いている。
 どこかの絵で出て来そうな、美しい光景。

「――ねぇ」

 起こしたくない、けど。
 起こさないわけにはいかなくて。
 語尾を上げて彼の名を呼べば、ぱちりと目が開く。

 ねぇ、本当に寝ていたの?

「おはよ」
「そんな時間じゃないけどね。……寝ていたの?」

 現在、午後十時。
 私の手には塾用の鞄、彼はいつもと同じ、闇にとける紺色のジャージ。

 約十分の逢瀬を繰り返して、もうそろそろ半年が経つ。

「んー、寝てた、って言えば嘘だけど。寝てなかったとも言えない」

「起きたんだ」

 彼に近付くまでに、起こしてしまったのか。
 申し訳ないような勿体無いような――。
 少し残念、かもしれない。

「寝てたらキスしてくれるかな、なんて思ってたし」

「……そんなこと、しないよ」

 だって付き合ってるわけじゃないし。

 視線を逸らして小さく呟くと、彼はしてやったりと言わんばかりの顔。 

「ざーんねん。さて、行くか」

「うん」

 同じ会話、同じ道のり。
 決して長くならない、十分という時間。
 もう少しだけ寝ていて欲しかった。


 そう思うのは、私のわがまま。
 絶対に彼には伝えない、私だけの。


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あきゅろす。
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