日の光の下で見るきみは
それは偶然だった。
ちょうど母親がいなかった土曜日のお昼、せっかくだから隣町のファミレスで食べちゃえってお兄ちゃんと結託して。
お腹いっぱい食べた帰り道、午後一時。
日の光の下に彼がいた。
「……あ」
いつもの紺色のジャージと、白いエナメルのスポーツバッグを斜めがけ。
ジャージは闇に溶けたりせず、バッグの白はきらりと光を反射させている。
ほんの少しの違和感は、多分私の中の彼は夜にしか会わない人だったから。
でも、こんなに太陽が似合う。
もったいない、と思わず口が動いた。
部活に行く前か、あるいは帰ってきたのか。
二車線を挟む向こう側の道を、一人きりで歩く彼の姿からは判断がつかない。
気になってじいっと見つめていると、横にいるお兄ちゃんが彼に目をやった。
詳しく言うと彼のジャージについたエンブレムを身ながら、「お前と同じ中学じゃねーな」と声をひそめて一言。
その通りだけど、その通りじゃない。
私は同じ中学校の子かどうか確かめたかったんじゃないんだ。
「知り合い?」
「うん」
小さな声で返した。
「へー。ついにお前にも彼氏が出来たか」
よくよく考えれば、その時のお兄ちゃんはからかうような響きで言っていた。
間延びした口調、意地悪そうににやりと歪んだ口元。
わしゃわしゃと私の髪を掻き混ぜる。
ただ、私はそこまで頭が回らなかった。
思いのほかお兄ちゃんの言葉は重く、ずしん、と圧し掛かってきた。
「……どうなんだろ」
告白めいた言葉は言われた。
時々「パワー充電させて」とか言ってぎゅーっと抱きしめられたりはされる。
毎週火曜日と土曜日の夜。
十分間の幸せな逢瀬は、一年以上経った今もまだ続けられている。
ただこの関係に何と名前をつければ良いのか、私は知らない。
暗い顔をしていたんだろう。
お兄ちゃんは悩む私の肩にぽんと手を置いた。
「ま、悩め悩めー。せーしゅんって良いね」
「他人事だと思って……」
横目で彼を見る。
私達の様子に気付くこともなく、真っ直ぐに前を見て斜め後ろを歩いている。
――あれ、どうして。
さっきは私達の方が遅かったのに。
「正しく他人事だかんな、俺に出来るのはこのくらいしかない」
そう言うと、お兄ちゃんは私の手を取って前後にぶらぶら揺らした。
かさついた指先の感触。
冷たい私のそれとは違って体温が通ってる手の平。
手を繋いで歩くなんて何年振りだろう。
繋いだ手から、頑張れってじんじん伝わってくるような気がする。
「ありがとう」
今日の夜には、もう一歩近い距離を歩こう。
火曜日の夜には、日の光の下でも会いたいって言ってみよう。
大丈夫、まだまだ時間はあるんだから。
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