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友情カウンセリング【1】
 人はスキ。
 でも、男子はキライ。

「……だから止めてって言ったのに」

 何でかって、こんなのがあるからだ。廊下や教室の中を歩くたびにひそひそ、男子達の声が聞こえる。
 かと思えば突然みんなで笑い出したり、「お前それはありえねー!」なんて言っていたり。

 自意識過剰かもだけど、それ全部、私の悪口に思えて仕方ない。

 元凶はこいつ。
 私の隣で平然と笑ってる悪友、千尋。

「似合ってるからいーじゃん。スカートもネックレスも髪型も完璧、あれは間違いなく羨望か嫉妬の目だね」
「どうしてそう思えるわけ?」
「俺がそう思うから」

 何てことはない教室の椅子も、こいつが座ればきらびやかな玉座に見えてくるから余計ムカつく。
 えっらそーに足を組んでふんぞり返って、自分の道だけ突っ走ってる感じ。私には出来ない、うらやましいことだ。

「そもそも、彼氏に大人扱いして欲しいだけだろー? なら周りの目なんて気にすんな」

 千尋はシルバーのクロスを弄りながら、視線をさっと横目にずらす。あと十分で終わる昼休み。
 昼食を食べ終わって教室の隅にかたまる男子達、いくつかのグループを作ってお喋りしてる女子。カフェテリアに行ったクラスメイトもぽつぽつ帰ってきてる。

 男女ペアで話してるのは私と千尋くらい……じゃなくて!

「ちょっ、それ言わないで!」

 もちろん、私に彼氏がいることだ。

 ぴったり十歳年上のカウンセラー、というか株トレーダー。付き合い始めたのは中三の終わりなんだけど、まあそれは置いておいて。
 とにかく、私は彼氏がいることを秘密にしておきたいわけ。

 何でかって?

 話題のネタになって根掘り葉掘り訊かれるの、目に見えてるし。
 それで惚気られるんだったら構わないよ、でも現実はそういかない。

 千尋は「ハイハイ」って適当な返事をすると、じっと私の姿を見つめる。
 手触りが良さそうな茶色の髪に、憎たらしいくらいにパッチリした目と卵形の輪郭。典型的な女顔だからって、どぎまぎしない理由にはならない……と思う。

「お前も健気だよなあ〜、一時間かけてそれやったんだっけ? ネックレスは俺の見立てだから似合って当然だけど」


 これだよ。


 千尋に彼女出来ない理由、絶対これだと思う。強引なのは素敵ってときめく子もいるけど、ナルシストは論外だ。

「まあね……」
「カールも良い感じ。ヘアアイロン、教えた通りに出来たんだな」

 ただし、千尋の場合はちゃんと実力が比例してる。プロを目指してるだけあって、メイクも服の選び方も浴衣の着付けまで完璧。
 こいつに教わるのは癪でも、背に腹は代えられない。

「あ、千尋が言ってたことメモしてたから。リップもオススメの使ってみた」
「良い出来だけど。メイクは彼氏の前だけにしとけ、くれぐれもやり過ぎるなよ」

 実はもう、やってしまっていたりする。

「……そうする」

 千尋に手取り足取り教えて貰った次の日、日曜日で比較的時間があるのを良いことに。

 マスカラはダマになったしマニキュアははみ出るし。あまりの悲惨さに目も当てられなかった。
 ああ、笑顔が引き攣るわ。

「機会があったらまた教えて」

 そう言うと、千尋は顎の下で手を組み、上目遣いでにんまりと微笑む。

「『トレゾァ』のメロンフロート」

 報酬に奢れってことだ。この前は学校の帰り道にアイス、更にその前は雑貨屋に同伴。

 千尋いわく『男だけだと怪しまれる』のだから仕方ない。こっちだって千尋に協力して貰ってるんだからお互い様。年代が違うとはいえ、男子の意見は貴重。


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あきゅろす。
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