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ロートス的愛(ルシナル)



 愛だの恋だのと云った感情に絡め捕られるとは、なんたる誤算!








「アバダ・ケダブラ!」
 いくつかの声が重なって、一面、見渡す限りを緑色の閃光が包んだ。断末魔が耳をつく。それもやんでしまえば、酷く静かなものだった。
 魂が抜けてただの『器』となった者たちの顔を見れば、皆一様に醜く歪んでいて(それは恐らく絶対的な恐怖によるものだ)、至極不愉快な気分になる。その中に見知った顔を見付けて歩みを止める。
 嘗てホグワーツにいた頃、やたらと私に干渉したがる男だった。生まれはマグルの家系でありながらなんとおこがましいと思っていたら、案の定死様は惨めなものだ。否、この私の手にかかったのだからマグルにしては、果報者だろうか。
 馬鹿な男だ。穢れた血は、我等純血の魔法使いに尾を振っていれば良いものを。

「閣下?」
「…………あぁ、何だ」
 直立した私を訝しむように側にいた男が声をかけてくる。気が付けば他の死喰人たちはもう姿をくらませていた。
「どうかなさいましたか」
「何でもない」
「お顔の色が優れない御様子ですが」
「いや。…………ああ、そうだな。眩暈がするようだ。卿への報告は君に任せる」
 言うとまだ年若い男は深々と頭を下げて姿くらましをした。特有のバチンという音が響いて、それからまた静寂が戻ってくる。
 眩暈がするというのは半ば本当であるが、半分は嘘だった。しかし体調が優れないことにはかわりないのだから、卿のお咎めを受けることはなかろう。

―――それにしても、なんて、気分の悪い。












 屋敷に戻ると、深夜ということもあり、物音ひとつしなかった。黒く長いローブを脱ぎ捨てて階段を上ろうとすると、おかえりなさい、と頭の上から声がかかる。
「ナルシッサ。まだ起きていたのか。身体を冷やしてはいけないと言っているのに」
「だって、あなたが心配で…………」
 ナルシッサはそういうと、私の頬に手を寄せて微笑んだ。
「綺麗な肌。今日も生きて帰ってこれましたね」
「私が下手をすると思うのかい。縁起でもないことを言うんじゃないよ」
「心配もするわ。私たちが多くの人間の命を奪っているように、仲間の命も奪われているのよ。―――それでもあなたは、私の元に帰って来て下さいました」
 それが、嬉しいの。
 ナルシッサは幸せそうに目を細めてみせる。わたしは束の間、その美しい笑顔を眩しいものを見るかのように見つめた。
 喉元につかえていたものが消えゆく。気分の悪さが緩慢に癒えていく感覚はひどく心地がよくて、わたしは、口を開くこともなくナルシッサを抱き寄せた。
 彼女が学生の頃から愛用している香水の香が鼻孔をすり抜け、甘美な痺れをもたらす。
 ナルシッサは片手を私の背に回し、もう片方を自身の張り出した腹へと宛てがうと、歌うように言葉をつむいだ。
「…………わたしたちの可愛い赤ちゃん。ねぇルシウス、名前は何がいいかしら」
「何だいシシー。随分と気が早いね」
「そんなことないわ。わたし、毎日会える日が待ち遠しくって」
 瞼に唇を寄せてやるとナルシッサは擽ったそうに身をよじる。冷えた肩先に先程脱ぎ捨てた漆黒のローブを掛ける。あたたかい、そうナルシッサは微笑んで、私の手を自身の腹に触れさせた。

「…………そうだな、ドラコ」
「ドラコ? 素敵な名前!」

 血に濡れた身を覆うためのローブを、たまには妻子の身体を暖めるために使うのも良い。私にとって大切な、ロートスの実。







「早く生まれてきなさい、愛しい息子」










Story is the end...






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あきゅろす。
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