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まちぼうけ(土方+山南)






 いそいそと屯所に帰って来た山南は、土方の姿を認めると朗らかな笑顔を見せて歩み寄ってきた。
「おう、山南さん。今日は朝から女の所に行ってたそうじゃねぇか」
 にやりと口元を歪めた土方は、自分の部屋に入るよう山南を促す。彼から誘うのは珍しいことだった。
「いやあ、こう言うと言い訳になってしまうかもしれないけれど」
 土方の正面に腰を下ろした新選組総長は、困ったように頭を掻いて続ける。
「君がこうして働いているのに悪いとは思ったんだが、左之助や総司たちが言ってこいと追い出されてしまってね」
「あいつらも暇だなア」
「私のような者のことが煩く感じる年頃なのかもしれない」
 自嘲じみた乾いた笑声を漏らす山南は、言葉とは裏腹にひどく慈愛に満ちた眼差しをしていた。それはまるで、子を思う両親のそれにも似ている。
「んなわけねぇだろうが」
 土方が呆れたように溜め息をついた。少し温くなった茶を一気に煽る。
「あいつらがそんなこと言うのは、女っけのないあんたを心配してるんだろ」
「はは、そうか。総司たちは優しいな」
「要らん世話だけどな」
「そんなことはないよ。嬉しい心遣いだ」
 山南は静かにそう言って目を細めると、茶碗を手にした。
「そうやって気にしてくれている人がいるうちが、花だよ」
「……あんたの、」
「うん?」
 言いかけて口をつぐんだ土方に、山南は顔をあげて聞き返す。てのひらに伝わったあたたかさに淡い微笑が浮かんでいる。土方は、何でもない、と顔をそらした。
「何でもないと言われると、気になってしまうんだけれどね」
「………あんたの浮いた話を聞くのは初めてだと思ったんだよ」
「ああ、そうだね。私は君ほど甲斐性がないから」
 山南が笑うと、土方は苦々しく目の前の男を見た。
「俺は甲斐性があるんじゃなくて節操がないんだよ」
「そう言えば、君の浮いた話を最近聞かないね」
 不思議そうに目を丸くし、どこか具合いでも悪いのかい、と心配そうな声音。
「ピンピンしてらあ。ただ、ちょいとばかし忙しいだけだ」
「あ…………、そうか。すまないね、」
「なんであんたが謝るんだよ」
 土方は再び呆れ顔をつくると、僅かな逡遵の後に口を開いた。
「あんたの女、今度見せてくれよ」
「明里を?」
「そ。良い女なんだろ?」
 土方の言葉に山南は照れたように笑い、
「ああ。私にはもったいない女性だよ」













「……山南さん、あんた、いつまで俺を待たせる気だ?」
 真新しい土方は墓石に手を触れさせてそう呟いた。指に感じたのは冷たさと、滑りのよい石の固さ。
「俺は死ぬまでまちぼうけじゃねぇか」
 彼の言葉は、まだあたたかさの少ない春の風に拐われて、消えていった。









Story is the end...


あきゅろす。
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