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20000HIT OVER
シニシズム(アーサー+ルシウス)


「―――怪我でもしたの」
 プラチナブロンドの髪を靡かせて人混みを抜けていく男に声をかけると、彼は振り返らないままに歩みを止めた。それは、アーサーを毛嫌している彼には珍しいことだった。
「……別に、」
「左腕を庇っているように見えた。授業で失敗でもしたのかい?」
「誰に向かって口を利いてるんだ。僕が失敗だと? 有り得ない」
 ルシウスは廊下を流れるように寮へ戻っていく生徒たちの姿を見ながら、肩をすくめて嗤う。如何にも馬鹿ばかしい、と言いたげな声音がその形の良いつむがれるのはいつものことだが、彼は少し、いつもより苛立っているようだった。そうか、と肯きはするが、そんな曖昧な態度に納得するアーサーではない。かつりと歩み寄り、その左腕を掴んだ。
「―――っ!」
 驚いて振り向いたルシウスの表情は、確かに歪んでいる。直ぐに右手で払われた手の甲を擦って、アーサーは静かに口を開いた。
「大丈夫なのか、」
「怪我などしていない。お前に心配される謂われも、ない」
「それじゃあ何なんだ。何をそんなに怯えているんだ、君は」
「怯えてなどいないッ!」
 普段から泰然と構え、余裕を以て物事に対応する彼らしからぬことばかり、今日のルシウスはするのだ。彼が声を荒げた姿を、アーサーは初めて見た。それは周りを行き交う生徒たちも同様であったようで、その場は水を打ったように静まる。ルシウスはぎりりと奥歯を噛み締めると、長い髪を翻して去っていこうとする。慌てて引き止めようとしたアーサーの喉元に、彼は杖をつきつけて目を細めた。
「僕に構うな」
 あ、こいつ本気だ。
 ルシウスが呪文の一つでも唱えれば怪我どころでは済まない状況にあって、アーサーはのんびりとそんなことを考える。本気だろうが、かわす自信があるからだ。―――苛々として理性を失いかけているルシウスなど、怖くも何ともない。
 しかし下手に刺激することもまた、得策ではないだろう。
「分かった、わかったから杖を下ろしてくれよ、ルシウス」
 出来得る限り友好的な笑顔を見せたアーサーは、降参だ、と言わんばかりに両手を挙げる。ルシウスは疑わしげにその仕草を一瞥しただけで、杖をつきつけたまま黙っていた。
「とりあえず、場所を変えないかい。マクゴナガルに見つかって減点を喰らうのは御免だ」
「その必要はない。僕はお前と話すことなど何もない」
「俺はそれでも構わないよ。だが、俺は君に話がある。歩きながらでいいから、聴いて」
 拒絶か承諾か、ルシウスはアーサーを一顧だにせずに歩き出した。










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