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忍び影2



「おれね、平助と約束したんです」
 ひとしきり世間話をした後、総司は伸びをしながらもののついでとばかりに口を開いた。
「平助のこと覚えているって。おれたちと一緒に京都に来て、一緒に新選組にいたこと、忘れないでって頼まれたんです」
「……そうか」
「だけど、おれじゃあもう守れそうにないから、土方さん、あなたが覚えててください」
 自嘲う総司は、けれども真摯な眼差しを歳三に向けた。
「馬鹿野郎、それはおめぇがした約束だろうが」
「大丈夫。土方さんにも伝えてって言われてますから」
「そういう問題じゃあねぇだろうが」
「そういう問題ですよ。土方さんはしつっこく昔のことを覚えているから、丁度いいや」
 肩をすくめる総司は、子供のように屈託なかった。
「しつっこくて悪かったな」
「やだなあ、誉めてるんですよ」
「それだけ元気なら、俺に頼るまでもねぇだろ」
 はぁ、と溜め息をついた歳三に、総司は淡く笑みを浮かべたままそうでもないです、と不穏なことを口にした。
「影がね、近づいてくるんです」
「……影? 何だそりゃあ」
「平助の時もそうだったんです。あいつが、隊を去る前の日。笑っているのに、笑ってなかった、影が、顔に……、」
「総司……? 大丈夫かお前、言ってることが支離滅裂だ」
 いつもだが、とからかう歳三の言葉にも、反応ひとつしない。いよいよ彼は、総司の苦しげに歪められた顔を覗き込んだ。
「それが、おれにも来てるんです。昔はこんなことなかったのに、笑おうとすると頬が引き攣るんです……っ!」
「総司、」
「約束してください土方さん、おれたちがいたこと、忘れないでください。―――本当はあなたにこんな重荷は背負わせたくないけれど、あなたにしか、頼めない」
 総司は苦しげな声で言うと、誓いを立てるように、枕元に置いてあった愛刀を土方に突き出した。その腕は重みに耐えかねてか、小さく震えている。
「土方さんならきっと、影さえ寄りつかないでしょう」
 笑みを滲ませた顔が引き攣っているようには、見えなかった。だからこそ痩けてしまった頬が痛々しくて、歳三は頷くことしかできなかった。







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