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マーブル色(小助+甚八)





 夕食の席でおよそ五人分かと言うほど食べた甚八が、吐気を訴えて寝込んだのは当然とも言えた。
「―――まったく、いい大人が気持悪くなるほど食べるなんて!」
 甚八の背をさすってやりつつも、そう言う小助の声は実に冷ややかな響きをたたえている。
「あなたの辞書には腹八分目と言う言葉がないんですか? え、ある? あるはずがないでしょう! あれだけ食べておきながら!」
 まったく、呆れてものも言えません!
 そう言いながら小助の小言は止まるところを知らない。部屋の中には彼の他に、うめき声をあげるしか出来ない甚八のみなので、止める人間もいない。甚八は気持ち悪さを誤魔化すふりをして、大きく溜め息をついた。
「さあ、甚さんこれ飲んでください。少しは気分がよくなるはずですから」
「…………何だよ、それ」
「薬に決まっているでしょう。私が毒を処方するとでもお思いですか」
 ぶっきらぼうに言って、小助は黒く小さな粒を差し出した。薬と名のつくものが大の苦手な甚八がしげしげと見つめると、やはり苛々とした声で早く飲むように促される。これ以上小助の機嫌を損ねては後が厄介と、一気に口の中に放った。―――強烈な苦味に、舌が痺れる。
「―――っ!」
「そりゃ、苦いでしょうね。一番苦いのをあえて選んだんですから」
 にっこりとした小助の背後に、何か黒いものが見える。甚八は涙目になりそうなのを堪えてそれらを飲み込むと、小助が持っていた茶を慌てて引ったくった。行儀が悪いですよ、と満面の笑みで言われたけれど、気にしない―――否、気にしている余裕などない。今までに味わったことのない苦みに、思わず苦虫を噛んだ時にはこんな味なんだろうかと考えた。
「―――悪かったよ、」
 小助の怒りをとくのが先決だと思ったのか、甚八は青い顔のままそう呟く。小助は容赦なく冷たい声音で返す。
「私の料理で気分を悪くしてしまったのかと思ったんですよ」
「だから、悪かったよ。―――でも、俺お前の飯大好きなんだもんよー」
 許してくれよぉ、と甚八は情けない声を出す。
「………情けない」
「あ?」
 小助が溜め息と共に吐き出した言葉に、間抜けな声で聞き返した。恐る恐る振り返れば、穏やかな苦笑いに出会う。
「そんなこと言われて、嬉しくてたまらない自分が、情けないと言ったんです」
 そう言うと、小助は懐を探って白い包みを取り出した。構えた甚八に、毒なんかじゃありません、と苦笑が言った。
「おはじきみたいでしょう? 村の子にもらったんです。飴だそうですよ」
「へぇぇ、すげぇな!」
「ひとつだけあげます。苦かったでしょう、さっきの薬」
 てのひらを返したような反応を怪訝に思いながらも、甚八は遠慮なく手を伸ばした。

 冷たい食感と共に甘さが広がる。先程まで甚八を苦しめていた吐気も、だいぶ薄らいでいた。










Story is the end...


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