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貴方の癖(沖田+永倉)


 全ての思惑を洗い流した雨は、翌朝にはすっかり上がっていた。


「おうい、総司!」
 普段より幾ばくかしょぼくれた背中に声をかけると、普段より数段胡散臭い笑みが張り付いた顔が此方を認める。
「やあ、新八さん。何です?」
「何、ちょいとばっかし腕がうずいてな。一本やらないか?」
 言って面を打つ振りをしてみせる。向けられた顔は僅かに輝いたが、それもすぐに消えた。眉根を落とした総司は、うなだれた首を左右に振ってみせる。
「駄目だ、今日は芹沢先生の喪に服さなきゃ」
「いいから。行くぞ。そんな腑抜けた顔してちゃァ、芹沢に笑われるぜ」
 冗談めかして言えば、総司は自ら出した名前にも関わらず、芹沢、と俺が言ったのに一瞬後れてびくりを肩を震わせた。


*


 かんっカン、と乾いた音が響き続け、道場内は熱気に溢れていた。
「おおおおおおっ」
 面ッ、と向かう俺の木刀を総司が受け流す。体勢を立て直すように背後へ退るが、打ち込んで来ず、先程から牽制ばかりだ。
 総司は完全に闘志を逸している。
「そんなに芹沢の死が悲しいかッ」
「そりゃ、世話になりましたから、ね!」
 俺は総司に木刀を下ろす暇を作らせぬように打ち込み続ける。そうは言っても普段の彼になら屁でも無かろうに、総司は息を上がらせたのか、言葉を切々に俺の剣戟を全てすんでの所で受けた。
「確かに、世話にはなったな。……だが、彼奴を斬ったんだろっ?!」

 カンッ

 僅かにたじろいた総司の木刀を払い除ける。その流れで面に打ち込むが、それは白刃取りで阻まれた。
 総司の防具の向こう側の瞳は大きく見開かれている。それは木刀を払われたせいでは無かろう。
「やっぱ、芹沢達を殺ったのはお前等か」
「どうし、て……それを、」
「なあに、勘さ。妙な緊張が有るな、と思ってね」
「それで鎌をかけられた訳ですか。貴方も人が悪いや」
 総司は面を外しながら少し拗ねたように不平を言う。平生ならば笑って謝する所であるが、今日ばかりはそうする余裕はなかった。
 人が悪いのはどちらだ、と俺は木刀を放る。
「気に食わねぇなあ。俺は外されたか」
「新八さん、」
「下手人は? お前と近藤さん、土方さん、山南さん、源さんってとこか?」
「近藤さんと源さんは外れました。代わりに、左之さんが」
「ほう、左之か。いい選択だな」
「拗ねないでよ」
 殊更愉快げに喉を鳴らして片眉を持ち上げて見せると、総司は困ったよに肩を落とした。そうは言うが、拗ねたくもなる。
「俺を外したのは誰だ? 土方さんか」
「いいえ。土方さんは貴方の腕を買ってるから。今回は山南さんの提案。新八さんは芹沢先生とは同じ流派だから、殺りづらかろうって」
「山南さんが、ねぇ。相変わらずお優しいことで」
 心にも無いことを、片眉を上げて言う。
「そういう皮肉なら本人に言って下さいよ。おれは今回は、ただ剣を振るっただけなんだから」
 とばっちりは御免だと肩をすくめる総司は、己の保身を図るように、彼が口外したことを秘密にしておけと言い添えた。つくづく食えない男だ。






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