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アウトロー(ピーター)
僕にとっては彼らが唯一絶対の『法律』だった。
ロンがホグワーツに入学した。パーシーから彼のペットとなった私は、今年もホグワーツに戻ってきた。
それも、今年はハリー・ポッターと同室というおまけがついている。ロンがハリーと同じ年齢だということは知っていたからいずれ会うことになろうとは思っていたが、まさかこれほど早いとは。
『僕はハリー。ハリー・ポッターだ』
そう言って微笑んだ顔は本当に彼に瓜二つで―――今にもワームテール、と私の名を呼んでこの身にかかった魔法を解いてしまうような気さえした。
ロンとハリーは大の親友で、どこに行くのも一緒である。それ故彼の名前を耳にすることが多く、私は、実に心臓に悪い生活を余儀なくされている。私の中で彼は、そして彼と私の二人の親友は、依然大きな存在であるのだった。
このところハリーは『溝の鏡』の虜になっているようだった。私はまだそれを見たことがなかったけれども、学生の頃は同級生が何人かハリーと同じように鏡に見入られたと聞いたことがある。
『鏡に望みが写るからといって、叶うわけじゃないんだろう!』
ふとそんな声が脳裏に蘇る。彼はいつでも決まってそう言うと、自分の望みを親友に語るのがその頃の習慣だった。そのたびに彼の親友(もちろん私にとっても親友という位置にいたが)は耳たこだ、といってつまらなさそうにしながら、けれどもきちんと最初から最後まで聞いてやっていた。
何をするでもなく、ミセス・ノリスに見付からないようにだけ気を付けながら真夜中のホグワーツを徘徊していると、灯りの漏れる部屋があるのに気が付いた。覗き込むと、ダンブルドアとハリーが何やら話し込んでいるようだった。
話を聞くに、ハリーが鏡を覗くと彼の両親がうつるらしい。私はどうしてか息苦しさを覚えて、その場に蹲った。このまま元の姿に戻ってしまおうか―――そんな気の迷いを心内に抱いて、慌てて自分を叱咤する。ハリーだけならばいざ知らず、ダンブルドアが一緒にいるところで『ピーター・ペテグリュー』の姿を晒すわけにはいかない。そんなことをすれば最後、アズカバン行きになるのは確実であるし、下手をすれば吸魂鬼に熱い接吻を施されかねない。
そうしているうちにハリーとダンブルドアがおやすみの挨拶を交わすのが聞こえて来た。
私はとっさに壁に開いた穴の中に身を潜め、二人が去るのを待つ。軽やかに駆けていく足音はハリーの、かつかつと硬質のほうはダンブルドアのものだ。私は鼻先だけ穴から出して様子を伺っていた。すると硬質な足音が私のすぐ鼻先で立ち止まる。恐ろしくて見上げることは出来なかったが、ダンブルドアは私の存在に気が付いているのでは、息を凍らせた。
―――いつまでそうしていたろうか、ダンブルドアは無言のまま踵を返すと、殊更大きく足音が立つように、私から遠ざかっていく。
ほうと安堵の息をつき、けれどもまだ警戒しながら穴を這い出す。かつんかつんと廊下中に反響していた足音が闇に紛れてしまえば、辺りは耳に痛いほどの静寂だった。
ふと、私はみぞの鏡を振り返った。果たして私が鏡を覗きこんだとしたなら、一体何が見えるのだろう。
辺りに人がいないのを確認し、『ピーター・ペテグリュー』の姿に戻る。久々に伸びた手足は嫌な音を立てた。
一歩ずつまるで泥棒のように忍び足で歩んでいくと、鏡は中央に私を捉えた。
―――私があの方に誉めて頂いている姿、
だと思う。恐らくは。もしくはあのお方が復活なさっている姿?
そんなことを考えながら、鏡の目前に立って。はじめは私の姿が中央に写っているだけであった。―――目を凝らして見ていると、私の背後に、人影が形成されていく。
―――嗚呼、やはり卿が私を、
胸中で呟き、私は、だけれども自分自身に全てを言ってやる前に、口を閉ざした。否、唇は情けなく開いたまま。唯、声が伴わなかった、だけ、で、
私は、己が目を疑ったのだ。私の背後で微笑むのは、闇の帝王などではなかった。加えて一人でもなかった。私が見たのは、
「…………ジェーム、ズ………シリウス、……リーマス………!!!」
私の肩を抱くようにしていたのは、確かに、学生時代に私が親友と呼んでいた青年たちで。―――中央に立つのは、私が死に追いやった『彼』、その人だった。
三人は私を抱くようにして立っている。学生の頃、何をしても落ちこぼれだった私を慰めるためにそうしていたように、笑って。
「私の、」
私は彼らと過ごす日常を、何より望んでいるというのか? 彼らとの日常を、自ら断ち切った、私が?
僕にとっては彼らが唯一絶対の『法律』だった。
それを破った僕は、違法者となり果てた僕は、―――孤独という名の牢獄の中で、一人生きて逝く。
Story is the end...
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