赤い柩※死ネタ注意※ 彼の色は、いつからか。 海を模した青から血の様な赤に染まっていた。 「誰よりも愛してる。いっそ、殺したいくらい」 そう言ったアカイトは、いつもの不敵な笑顔なんて微塵も見せない程。泣きそうな笑みをたたえていた。 手には、愛と呼ぶにはいささか無機質すぎるアイスピック。 銀色のそれを握りしめ、ゆっくりと私の胸に沈ませる。 ((そうだ、これでいい)) こんな不条理な世界。 全ての終わりが愛しい人の手で、なんて。 ((素敵過ぎる)) そう、言いたくても。 胸が詰まって声にならない。 彼の愛か、死の快楽か。 満ち足りた感情が、私の中を彼と同じ、赤で埋め尽くしていく。 「なあ。あいつのとこなんか、行くなよ」 弱々しい囁きは、私への罰だろう。 ((ごめんね、ごめん)) 私が不安にさせたから。 そんな、泣きそうな顔なんか見たくないのに。 ピックの刃は全て飲み込んだ。 鼓動が、煩い位耳障りに鐘を打つ。 本能が手遅れな警鐘を鳴らす。 「好き。大好きだ」 アカイトの優しい瞳は、何よりも、誰よりも幸せな私を映し出す。 「俺だけのものに成ってくれよ…雪楽」 そう呟いて、懇願するように俯くアカイト。 嗚呼、意地悪した後の反省した顔。 変わらない、いつもの彼だ。 私が今、どんな表情(カオ)をしているのか解らないけれど。 とても幸せな感情に支配されて、彼を愛している事実が心を満たす。 「雪楽、大好き」 消え逝く意識の果てに見えたのは、堰を切ったように泣きじゃくる愛しい人。 それに、アカイトの瞳に映る「私の死体」。 酷く、傷つけて。愛されて逝くんだろう。 ((それも悪くない)) 最期に彼の色と同じ、血の口付けを交わして告げよう。 「っ…雪楽!!」 私が貴方の色を変えた。 その事実を忘れる前に。 [次へ#] |