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未知+遭遇=青
No.2
目が合って、俺のマスターだって思った。
一目惚れだったんだ。

店の電気が落とされた後、俺はガラスをぶち破った。

−−−

2年ほど前のこと。
発売直後に出荷された俺の期待を裏切るように、冷たい声で「届いたのは手違いだ」と告げられた。
片田舎の文房具屋で俺を引き取った、ひげの人(店長)の顔が、今でも忘れられない。

「どうせ売れないだろう、倉庫にでもしまっとけ」

無情な一言。
何も言えない俺は、ずっと備品に埋もれていた。
幸か不幸か、電源はずっと入っていなかった。
…意識はあるけど。

ある日何を思ったか、ひげの人(店長)が埃まみれの俺を店に出した。
表面だけ綺麗にメンテされ、ショーケースに陳列される。

「さっさと売れろよ?」

ガチャン、と頑丈な鍵が閉まって、その日から見世物のような形になった。
奇異の目で見られる中、時折デモソングを歌うだけだったけど、倉庫に比べれば幸せだった。

彼女が、来るまでは。

「………。」

20代位だろうか。艶めいた黒髪に反して、やる気のないしわしわのシャツ。
年齢に似つかわしくない程大きく開いた瞳は、キラキラと無邪気に輝いていた。

一瞬で、心を奪われた。

…あ、逃げた。

あからさまな態度を取られたのに、彼女の表情が焼き付いて離れない。
あの瞳は反則だ。
全てを奪われるような、彩りを与える輝き。

もう一度、会いたい。

デモソングの為に充電されていたのは、かえってよかった。
破ったガラスとドアに反応して、やたらと煩いサイレンが鳴り響く。

誰か来る前に逃げなきゃ…彼女に、会わなきゃ。

そうして、俺は文房具屋から逃亡した。

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