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4000hit御礼SS 君の待つ庭(The secret garden)
「コンコンッ!」

部屋のドアをノックする音がする。

「はい」

メアリーは元気に返事をした。

「おはようございます、お嬢様。朝食をお持ちしました」

入ってきたのは家政婦のマーサ。

「おはようマーサ!今日はね、みんなで向こうの庭に花の種を植えるの」

メアリーが言う『みんな』とは、従兄弟のコリンとマーサの弟のディコン。この屋敷には、子供は3人しかいない。

マーサが運んできた朝食を食べながら、隣に座る彼女に楽しそうに話すメアリー。

「お嬢様は、ここにいらしたばかりの時より、すっかり見違えるようになられて。お食事も全て綺麗に召し上がるし」

「えぇ。毎日とても楽しいもの。楽しい事をしていると、お腹もすごく空くのね」

以前は見せる事のなかった笑顔を見せるメアリーを、マーサは嬉しそうに見つめる。

「コリンは、もう起きてる?」

「お坊っちゃまもお目覚めになって、メドロック様とお食事中ですよ」

「うわ〜、メドロックと?可哀相!」

思わず吹き出すメアリーとマーサ。メドロックは、家政婦頭でとても厳しい婦人。ここへ来たばかりの頃は、メアリーもよくぶつかった。

「早く食べて、コリンを救出よ!」

急いでスープを食べ終え、身支度を整える。
部屋を出て階段を駆け降り、コリンの所へ向かった。

扉の前で身嗜みを整え、深呼吸。メドロックの前では、子供でもレディでいなければならない。
上品に、ドアをノックする。

「はい」

メドロックの威厳に満ちた声が聞こえた。

「おはようございます。メアリーです。入っても宜しいですか?」

「どうぞ、お入り下さい」

ドアを開けると、きちんと背筋を伸ばして椅子に座るメドロックと、ようやく朝食を食べ終えて苦虫をかみつぶしたかのような顔のコリンがいる。

「おはようございます。コリン、お食事はお済みになって?」

「うん。もう行ってもいいでしょう?」

メアリーの姿を見て、ぱっと顔を輝かせるコリン。恐る恐るメドロックの顔を見た。

「ようございます。今日もお庭へ?」

珍しく表情を和らげるメドロック。二人は驚いて顔を見合わせつつも、「はい」と返事をして早々に屋敷を出る。





「メドロックは、どうしちゃったのかしら」

「パパが屋敷にちゃんと帰ってくるようになってから、ずっとあんな風なんだ。ちょっと優しくなった」

秘密の庭が開放されてからというもの、お屋敷の中にまで明るい空気が入り込むようになり、皆明るくなった。
妻を亡くしてから屋敷に寄り付かなくなったこの館の主も、ほぼ毎日帰宅して、コリンは父親と毎日顔を会わせられてとても喜んでいる。


「ディコン!」

庭の奥にディコンの姿を見付け、走り出すコリンとメアリー。

「おはよう!旦那様が昨日、花の苗も下さったんだ。これも植えよう」

「パパが?」

「うん。昨日の夕方、馬小屋までいらっしゃった」

ディコンの手には、小さな花の苗がいくつも入ったカゴがあった。

「今日も忙しくなりそうね。庭を花でいっぱいにしましょう!」

腕まくりをして、気合いを入れる3人。


―またお洋服を泥だらけにしたら、マーサはなんて言うかしら。きっと、男の子みたいだって言うわね

マーサの驚いた顔を想像して、メアリーは独り笑った。



花を、咲かせましょう
木を、植えましょう
鳥を、呼びましょう

もう二度とお屋敷と庭、皆の心が閉じてしまわないように……



title:ハマヒルガオ様

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