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Novel
風邪【セザルノ】

「・・・ったく、なにやってんだ」

無愛想な声とともに、玄関の扉が開く音がする。
ドスドスとこちらに近づいて来る足音は、怒っているようだったがどこか優しさを含んでいた。

私の部屋のドアからひょっこりと顔を出し、いたずらっぽく笑う。

「僕に会えなくて寂しかったのか?」

「そんなわけあるか、バカ・・・」

顔が熱い。いつもなら逆の立場なのに、と思うと歯痒くてたまらなくなる。

「まったくやっかいなものだ、風邪と言うのは・・・」

口の中で呟いたのだが、どうやら少し声が大きかったらしい。

「なんだい君、風邪ひいたことがないのか?」

「いや・・・患ったことが無いではないが、子供のころから体は強いほうだったからな」

「ふぅん?」
まあ、バカは風邪引かないって言うしな。

そう言って笑って見せる彼に、不覚にもときめいてしまう。

「・・・バカとは私のことか?フン、言ってくれるな」

「風邪なんだから強がらなくていいのにー」

「強がってなど・・・ゴホ、ゲホッ」

「大丈夫か?ほら、おとなしく寝てろ」

起こしかけた上半身に触れる手が優しい。
とか思ってしまうあたり、やはり身体が弱っているときは精神面も脆くなりやすいらしい。


「・・・辛いか?」



―――だから、こうやって覗き込まれたりすると。

「・・・うるさい」

柔らかい布でできたものを顔まで引き上げる。今は顔を見られたくない。

「大体、何をしに来たんだ貴様は。さっさと帰れ」

「なっ・・・!ひどいなぁもう!お見舞いだよ!」

「そうか、帰れ」

彼はため息をつき、私の顔の上の布団をどけた。

「帰れって言うんならもう帰るけど・・・まぁ、セザンヌの顔が見れてよかったよ」

いやに眉尻を下げている。いつもの彼なら、怒って帰ってしまっただろうに。

・・・・・・いつもより優しい、それなら。


「・・・っと、・・・く・・・」

「え?」

「・・・もっと、近くに来い」

「?うん」

顔と顔との距離が10cm程になったところで、彼の襟元をつかみ、一気に唇をくっつける。
がつんとした衝撃。
一瞬遅れて彼の味が口に広がる。
そのまま自分の舌を彼の舌に絡めていく。

部屋にはしばらく水音と彼の喘ぎ声が響いていたが、やはり体が辛くなってきたので、また強引に彼を引き剥がす。

半ば呆然とした顔の彼を見、むりやり口角をあげて見せる。


「お前なんか、風邪ひかせてやる・・・」

「ん。なッ・・・!?」

見る見るうち異赤くなるその顔を尻目に、また布団にもぐりこむ。

「これで満足だろ、早く帰れ」

まだ何か言いたそうにしていたが、1分ともたずに帰っていった。
部屋を出る際に「セザンヌのバーカ!!」と言い残して。




後日。

「やぁルノワールくん、バカでも風邪はひくんだね!あ、コレお見舞いの品!」

「うるせー、いい顔しやがってッ!!」










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病人セザンヌでしたー
書いてて楽しかったです(´▽`*)



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あきゅろす。
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