Novel
お風呂【セザルノ】
「ちょ…セザンヌ、そこ、やっ…」
「ん?…ここか?」
「や、ぁっ…やめ、ろッ」
何故僕がこんな風になっているのかというと、それは10分ほど遡らなくてはいけない。
「ふー…いい湯だ」
僕はその日、セザンヌの家に遊びに来ていた。
というか、奴が見せたい絵があるとかで、半ば強引にお呼ばれした上、泊まっていくことになったのだ。
結局その絵は何のことはないただの風景画で、しかしその風景には見覚えがあった。
(セザンヌめ…どうして僕の描いた絵と同じ風景を…?毎度のことだが、何が言いたいのかさっぱりだ)
浴槽に張ってあるお湯に顔を半分ほど沈め、ぶくぶくとやる。
ヒゲが微かにそよそよとしているのが分かる。
なんだかくすぐったいな。セザンヌとキスをしている時のようだ。
…キス。
奴との最後のキスは、いつだったろう?
最近は全くないに等しいほどしていない。
まあもともと、奴からしてくるだけだったのだ。僕からしたことはないはず。
……奴は、僕をもう好きじゃないのだろうか。
近頃めっきり触れる機会がない。それは、ただ単にお互いが忙しいのだと思っていたが、
(実は、飽きられてたり、とか…するのかな)
自分の恋人であるはずのそいつのことを考えると、急に寂しさが溢れて、
ーーーいやいやいや何を考えているんだ自分落ち着けそんなこの僕が奴がいないと寂しいなんてことあるはずがないだって僕は天才で画家であいつよりずっとずっと勝っていてだから、
…頭がオーバーヒートしそうだ。くらくらする。きっとのぼせたんだろう。
だから、
だから、この後にやってしまったことは全部、この熱めのお湯が悪いのだ。
がらり、と浴室の扉が開く。
見るとそこには、服を脱いだセザンヌの姿があった。
あ、セザンヌ、と口を動かそうとして、
「…セザンヌ!?」
「なんだねルノワール君」
いや、僕が求めているのはそんな返事じゃない。
どうして君がそこにいて、そんな格好なのかということだ。
だがしかし、口がぱくぱくと動くだけで声は出ない。
くそ、使えない喉だ。
そうこうしているうちに、セザンヌがこちらに近寄ってきた。
なんだか分からないけど、すごく緊張して、奴に来てほしくなくて、それを伝えたかったけどまだうまく声が出せなくて、
「こっち、来んなっ・・・」
必死で絞り出したその声は自分で聞いても弱々しく、最初の方などは掠れていた。
「おいおい、ひどいじゃないかルノワール君。此処は私の家だぞ?」
それはそうなのだが、
「…でもダメだっ、僕が先ってじゃんけんで決めただろ!」
「あぁ、そうだっけ?」
「とぼけんなっ!!」
全く、何を考えているんだこいつは。
別に僕は、こいつと入るのなんかまっぴらごめんで、恥ずかしいなんて少しも思ってないんだからな!
「まあいいじゃないか。寒くなったんだよ」
「いい訳あるか、馬鹿セザンヌ!」
…でも、寒いなら……仕方ない、…かな?
「そもそも此処は私の権限によって成り立つ場所で、そうすると異物は君の方なのだから、私はいつでもその姿の君をそのまま外に出せるんだよ?」
何を言っているのかよく分からないが、そうすると僕は従っていた方が得策なんじゃないかと思えてくる。
「そうか、それならまあ…ってお前、いきなり湯を抜くな!!」
「ん?ああ、私は人の入った湯に入れないんだ」
…なんてヤな奴!
極度の潔癖症だとか言ってるけど、不快には変わりない。
そうこうしてるうちに、セザンヌが浴槽に足を入れてきた。
「ん・・・せまいな。ルノワール君、少しそちらにずれてくれないか」
ここでおとなしく端へ行くか出て行くかすればよかったんだろうけど、その時の僕は何故か意地をはってどかなかった。
「ずれるもんか!狭いんだったら後で入ればよかっただろ!!」
「いいだろう別に、誰に迷惑をかけるわけでもないし」
現在進行形で僕に迷惑がかかっているのが分からないのか、このアホンヌは・・・
と思ったけど、口には出さなかった。
その代わり、僕は少し肌寒く感じながら言った。
「なら力づくでどかしてみればいいだろ。人のことを貧弱だの何だの言う割に、こういうときは自分でやらないのかよ」
セザンヌは、その言葉にむっとしたような表情をしたが、すぐにニヤニヤ笑いを浮かべた。
「いいのかね?力づくでやってしまっても」
僕はそのとき、セザンヌが何故こんな風に笑っているのか分からなかった。
「ああ、いいさ。できるものならね」
ふふんと鼻で笑うと、奴はもう満杯の浴槽に無理やり体(生意気なことに、僕より筋肉がついている)を沈めてきた。
さっき入れなおしたばかりのお湯が派手な音を立ててバスルームの床に散った。
その思いがけない行為に、当然のごとく僕は抗議した。
「いったいなあ、もう!結局何もしなかったじゃないか!」
「ああ、今のは準備みたいなもんさ」
「準備?」
意味が分からない。
そう言おうと口を開いた僕に、奴はニヤニヤ笑いをいっそう深めて言い放った。
「さっき確認しただろう?力づくでヤってもいいか、と」
・・・とまあ、こういうことがあって冒頭につながるのだが。
なんて汚い手を使う奴なんだとは思ったね。
おかげで僕は風呂に入る前より疲弊する結果になってしまったわけだし。
今度僕から同じことをしてやろうかとも考えたけど、変態の奴のことだから、喜ばせてしまいそうでやめた。
・・・いや別に、反撃の反撃がきそうで怖かったとかでは決して無いんだけど。
何はともあれ、今回のことで僕はひとつ心に決めたことがある。
セザンヌと二人きりでお風呂なんて、今後絶対入ってやらないってことだ。
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オチは、もともと考えていたR18的なネタを急遽変更にしました。
セザンヌには悪いんですが、なんか文章にするのは抵抗が出てきて・・・w
最初のほうちょっと怪しいですが、とりあえずR15くらいの扱いにしておきますwww
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