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Novel
あけましたおめでとう!【セザルノ】

1月1日。
玄関のドアを開けて、外を確認する。

…やはり居たか。

「…ルノワール君。そこで何をしているのかね」
「なッ…、…気づいてたのかよ」

ちぇっ、とでもいいたげに口を尖らせ、目線を逸らしたのは私の友人である。
正直、舌打ちしたいのはこちらの方だったが、その友人の表情を愛らしいとも思ってしまうので困ったものである。

しかし今は可愛いなどと思っている場合ではない。新年早々、このトラブルメーカーは何をしに来たのか。

「質問に答えたまえ」

玄関の前でうろうろしていたこの友人は、気まずそうに下を向いた。若干顔が赤い気がする。寒い中、ずっと居たのだろう。
私はひとつため息をついて、彼の顔を覗き込み、言った。

「とにかく家に入れ。私の家の前で寒そうにされて、悪い評判でも立ったらかなわん」

彼は弾かれたように顔をあげ、少し戸惑った後に、ふんわりと笑った。

「ありがとう」

とくん。

…いや待て。なんだ今のとくん、は。これは…こいつがいつもとは違って見えたから、ちょっとびっくりしただけで…別に、そんな、少女マンガのような展開とは掛け離れたとくん、で、だから、

もやもや考えているうちに、ルノワールはさっさと家の中に入ってしまった。まったく、お邪魔します、はないのか。
しかし、そんなところはいつものルノワールで。
少しだけ、安心してしまった自分が居た。



「で?どうしたんだ、いきなり」

コーヒーを出しながら言うと、

「…ねえセザンヌ、僕んのはカフェオレにしてくれていいんだよ」

…どこまで図々しいんだ。

「自分でやれ。そうでなければ我慢してブラックで飲むんだな」

「むぅ…セザンヌのケチ」

「ケチで結構」

ソファに体を沈め、コーヒーを啜る。
向かいのルノワールを見ると、神妙な顔をしてコーヒーを見ている。まさかブラックを飲むのだろうか。
彼は、ほんの少しカップを傾けてから盛大に顔をしかめた。苦かったらしい。コーヒーを噴きそうになるが、堪える。
結局自分でミルクを入れるらしく、テーブルの上をきょろきょろとする。砂糖は見つけたが、ミルクが見つからない。諦めて砂糖を入れ、一口。…まだ彼のお子ちゃまな味覚には合わなかったらしい。眉間にしわを寄せ、角砂糖4個入りという恐ろしい糖度のコーヒーを眺める。
ややあって、目線だけ上げて私を見てきた。いわゆる上目遣い、なのか。気づかないふりをしてコーヒーを飲むと、私を見つめる目の眉尻が下がった。…なんだか捨てられた子犬を彷彿とさせられる。
もう少しそれを見ているのも良いが、さすがに可哀相なのでミルクを持ってきてやろうか。
そうして私が立ち上がろうとした時だ。

「あの、セザンヌ…えっと、…怒ってる?」

声だけでシュンとしているのが分かる。何となく嗜虐心がそそられて、軽くいじめたくなった。

「…どうして、私が怒ってると思うんだ?」

すると彼はコーヒーをテーブルに置き、膝に手をやった。うなだれている子犬の耳と尻尾が見えてきそうなその態度に、思わず頬が緩みそうになる。

「…さっき、玄関の前に居たのは…ぁ、う、えと、…」

顔がみるみる赤くなる。表情の変化が面白い。

「どうしたんだ?早く言いたまえよ」

「わわ分かってるっ!…そのぅ………、かった…から…」

「聞こえない」

「ふぅ、え…」

もう半泣きじゃないか。

「うぅ…あ、挨拶しにきたんだよっ」

「挨拶?」

「うん…日本では、年明けに親しい人に挨拶しにいくのが通例って聞いて……。だけど、なんかセザンヌの家まで来たら急に恥ずかしくなって、だからぁ…」

鼻がぐずぐずいっている。そこまで恥ずかしいのか?
見兼ねてティッシュを差し出してやる。

「なんだ…別に恥ずかしがるところじゃないだろう」

「でも、でもっ…なんか変な気持ちになったんだもん」

子供のようなその姿に、呆れるを通り越したような感情が生まれる。自分と2つしか違わないはずなのに、何故こんなにもガキなのか。

「だから、ぅえ…ごめんなさいぃい…」

一瞬何を言っているんだと言いかけて、そして気づいた。こいつが泣いているのは、私が怒っていると思ってるのも原因なのか。

「別に私は怒っている訳ではない。ややこしい言い方をして悪かったな」

罪悪感が疼いて謝ったが、確信犯のくせにと自分でも思う。

「な…!ば、ばかっ!セザンヌのばか!!」

ますます赤くなってしまった。謝り損だとか何とかブツブツ言っているが、そこは放っておいて問題ないだろう。
忘れていたミルクを取ってきて、ルノワールのコーヒーに入れてやる。貴様の好きなミルクの量など、貴様よりも知っている。私の記憶力に驚くがいい。

と、ルノワールは何かを言いかけて慌てて口を閉じ、ぷいと横を向いた。その口の形から、大体の察しがつく。

「ルノワール君、"ありがとう"はどうした?」

「…うるさい、ばか」

あからさまに拗ねている彼に少々苦笑してしまう。まったく、素直じゃない。
なので、ちょっと意地悪をしてみた。

頤(おとがい)に手をかけ、自分の方を向かせる。冷たい目と声を意識して、できるだけ意地悪く。

「…うるさい?ありがとう、だろう?」

一瞬ビクッとしたが、頑として口を開かない。目にはうっすらと涙が浮かんでいるが。
それならと、セザンヌはニヤリとして言った。

「感謝もできない君には…躾が必要かな?」

首筋をいつもより強めにがぶりと噛んでやると、びゃあぁあというような声で鳴い…いや、泣いた。

「ごめんなさいぃいい!だってセザンヌが意地悪するからだもん!」

まだ言うのか。

まあ少しやり過ぎた感はある。まさか泣くとは思わなかったし。
仕方ないから今日はこれから甘やかしてやることにして、セザンヌはスーツが汚れないよう慎重にルノワールを抱きしめた。







*あとがきもどき。

…意味がわかりませんね。
妄想を綴りました。

どっちかっていうとセザ+ルノな気もする。

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あきゅろす。
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