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Novel
HALLOWEEN!!【曽芭】

「とりっくおあとりーと?」

不思議そうな顔でこちらを伺う曽良くんが珍しくて、つい調子に乗ってしまう。

「トリックオアトリートだよ!曽良くん知らないの?ふふん、やっぱり私の方が年を重ねて知識もあるからねぇ、無理もないよ」

「ただの年寄りなだけでしょう、威張らないでください。不愉快です」

「き、君ねぇ・・・仮にも師匠に向かって年寄りとか不愉快とか・・・」

痛烈な批判に頬が引き攣るが、そこは天下の俳聖様。慈悲深く許してあげましょう。
柔らかい表情に戻った芭蕉の腹に、深々とチョップが突き刺さった。

「理不尽ッッ!!」

「・・・なんだか失礼なことを考えているような気がしたので」

失礼とか君が言うのか・・・とは思ったが、そこは心にも顔にも出さないようにしておく。この鬼・・・いやいや弟子にそんなことを言ったら、断罪で殺されてしまうかもしれない。
口の端からたれてきた血を着物の袖で拭い、曽良の方へ向き直る。

「そ、それよりさぁ・・・今日ははろうぃんっていうお祭りらしいんだ。さっきのもね、はろうぃんの呪文みたいなものなんだって」

宿の人に聞いたんだー、と嬉しそうにする芭蕉を、曽良はいつもの無表情で眺めていた。
いい年したおっさん、それも天下に名高い俳聖様(笑)が祭り如きで騒ぐなんてみっともない・・・と思わなくもない、というかまさにその通りのことをついさっき思ったのだが、どうにもこのおっさんは新しいもの好きらしいと認識するようになってからは、こんなふうに年甲斐もなくはしゃぐのも受け入れられるようになってきた。
こちらに迷惑がかからなければ、もしかしたらズルズルと続いているスランプから抜け出すきっかけになるかもしれないし、老体での長旅は色々と負担がかかるだろうから、きっといいストレス解消になるんだろうと思ってのことだ。
ただ、はしゃぎすぎはかえって身体に負荷がかかる。

「・・・いい加減に落ち着いたらどうですか」

宿の人に聞いた、というのを聞いて何故か胸がひりついたが、それは関係ないのだ。

「おっさんがはしゃいでるなんて見苦しいですよ」

「なっ・・・辛辣だねぇ・・・」

苦虫を噛み潰したような顔、という言葉がよく似合う芭蕉の表情を眺めながら、しかし静かになったので先を急ぐことが優先とばかりに歩を進める。
小走りになって付いてくる芭蕉に足を引っ掛けてみれば、思ったよりもあっけなく転んで少し動揺した。顔には微塵も出さないけれど。

「っひ・・・酷いよ曽良くん・・・」

いつものようにキャンキャンと噛み付いてこないのか、と少し不思議に思って顔を覗き込んでみると、なんとその瞳は涙を湛えていた。
これくらいのことでは泣かなかったのに。

「・・・どうしたんですか」

思わず心配しているような口調になってしまった。後悔しながらも、口に出した言葉は戻ってくることはない。諦めて芭蕉の言葉を待った。

「どうしたもこうしたもないよ・・・足を引っ掛けたのは曽良くんじゃないか」

涙声で訴えてくる内容は全くその通りで、・・・その通りなのだけれど、

「・・・でもこのくらいで泣くなんて」

言われて初めて気がついたようで、芭蕉は着物の袖でぐしぐしと乱暴に目元を拭いて立ち上がった。
ぱんぱんと土埃を払いながら、もう涙混じりではない声で曽良に語りかける。

「泣いてなんかないよっ!ちょっと目にゴミが入ったの・・・だから、早く行こ?」

てこてこと早足で先をゆく芭蕉だったが、少し足を引きずっているようだった。

「芭蕉さん」

「今日のご飯は何かなー?せっかく10月最後の日なんだし、何か秋っぽいものがいいな!」

「芭蕉さん」

「秋刀魚?きのこ?それとも牡蠣とか?あ、栗ご飯もいいよね!私栗ご飯大好き!!」

「・・・芭蕉さん」

少し低くなった僕の声を聞いて、芭蕉さんの身が僅かに竦んだのがわかった。
それでも足を止めようとしない彼の手を引き、あくまでも自分の主張を装って訴える。

「僕、もう疲れました。ここら辺で宿をとりましょう」

「・・・君が疲れたって言うなんて、珍しいね」

口調からして、嘘だということはバレている。
しかし、ここで折れてしまうわけにはいかない。自分でも白々しいと思いながら、それでも嘘をつき通すことにした。

「僕だって疲れることくらいあります・・・だめですか?」

「だめ・・・じゃ、ないけど」

芭蕉さんの顔に逡巡の色が伺えた。本当に具合悪かったりしたらどうしよう、というような。
もうひと押しを感じて、ここらで演技を交えてみる。

「・・・もう動けないです」

「・・・・・・・・・」

座り込んで主張してみると、彼の顔には明らかな疑惑の念が浮かんだが、ようやく折れてくれたようだ。
諦めたように笑って一番近くの宿を指さす。

「じゃあ、今夜はあそこに泊まろっか。そこまでは歩けるよね?」

こくりと頷く。肯定の印を受けて、彼は安堵の表情を浮かべ、僕の手を引いて宿に向かった。






だが、問題は宿を見つけただけでは解決しなかった。

「離してよー曽良くん・・・散歩に行くだけだからぁ」

「駄々を捏ねないでください。部屋でおとなしくしていろと言ったでしょう」

曽良を強引に風呂に入らせ、曽良が部屋に戻ってくるといきなり散歩に出かけると言って聞かないのだ。
こんなことなら早めに風呂を上がるんじゃなかったと、曽良は今日何度目かの後悔をした。

「・・・もう!離してってばぁ!」

再び芭蕉の目に涙の膜が張る。
それに一瞬怯んだが、ここで離したら取り返しがつかなくなるような気がして、無理矢理大人しくさせることにした。

「いい加減にしなさい!」

「はぶうっ!?」

断罪チョップを脳天に落とし、・・・別の意味で取り返しがつかなくなるような気がしたが、これしか方法がなかったんだと自分に言い聞かせて、軽く気絶した芭蕉を部屋まで運ぶ。
目を覚ました時逃げ出さないように、あらかじめ縄で縛っておくことにした。






「・・・なんで今日はそんなに大人しいんです?」

目を覚ました芭蕉を正座させ、曽良は仁王立ちで彼に問うた。
別に尋問をしようとか思っていたわけではないのだが、芭蕉はその威圧感にかえって萎縮してしまっていた。

「なんで、って・・・」

曽良くんが煩わしそうにしてたから。

思ったことをそのまま伝えると、彼は困ったような、見ようによっては笑うのをこらえているような顔をした。曽良くんに限ってそんなことはないと思うけれど。
でも万が一ってことも考えて、縄を解いてくれるよう掛け合ってみた。
即答で却下された。

「じゃあ質問を変えます。・・・僕への不満があればどうぞ」

「え」

それは質問なのか、とは思ったけど、そんなことは然したる問題じゃなかった。

曽良くんが、私の不満を聞いてくれる?
ありえない。全くもってあり得ない。いつもの「まさに鬼」って感じの曽良くんからは想像も出来ない優しさに、私は目を剥いたのだ。

「・・・ない、です」

「嘘おっしゃい」

ハサミのようにスパッと切れる言葉を投げつけられて、私の心まで切れちゃいそうだった。
だって・・・ねぇ。
本当のことなんて、言えるわけない。
でも、いつもより根気よく私の言葉を聞いてくれてるし・・・

本当に本当のこと、言っちゃってもいいのかな?


「あなたが何を考えてるのか、ちゃんと聞かせてください」

曽良の言葉に、芭蕉はピクリと反応して、一瞬の躊躇の後、口を開いた。

「・・・じゃあ言わせてもらうけどさ」

下を向いてはいるが、その声の強さに、曽良は身体を緊張させた。

「ここに来る前、はろうぃんの話、したでしょ?それね、私、曽良くんの為に一生懸命覚えてきたのに」

「・・・僕のため?」

わけがわからないといった風な曽良に、芭蕉は気付いていないような調子で話を続ける。

「・・・押し付けがましいのはわかってるもん。でも・・・曽良くんのためって思って頑張ったのに、それを否定されたみたいな気持ちになって・・・」

今にも涙がこぼれんとする芭蕉だが、曽良の方は完全に置いてけぼりである。

「ちょっと待ってください・・・なんで僕のためなんです?」

「だって・・・曽良くん、新しいもの好きじゃない」

は、と口の中で漏れた呟きは、幸い芭蕉には届かなかったようだ。
悲嘆に暮れる芭蕉を見、曽良は眉一つ動かさずに考える。

僕が新しい物好き?・・・そんなことを言った覚えはない。きっと芭蕉さんが勝手に解釈したんだろう。だって新しいものが好きなのは芭蕉さんの方で、彼は好きなもののことだから僕にあんなに嬉々として教えてくれていて・・・

あれ?


「・・・芭蕉さん、あなたは新しいものが好きじゃないんですか」

「へ?いや別に・・・私は曽良くんが好きかなーって思って話してただけで、そしたら曽良くんが嬉しそうに聞いてくれたから、もっと教えてあげたいなって・・・」

絡まっていた糸が解けるような思いだった。

こんな簡単なことで、この数時間をもやもやしながら過ごしていたなんて。今日最大の後悔が曽良の心を襲う。
ちらりと芭蕉を伺うと、頭にはてなマークが浮かんでいたが、もうさっきまでのようには悲しんでいないようだ。
とりあえず縄を解いてやることにして、・・・種明かしはどうしようか。

芭蕉に言うべきことをぼんやりと頭の中でまとめていると、ある事実に気がついた。
先程までのモヤモヤのことだ。
もしかしてあれは、嫉妬だったのではないか。
自分以外のことを楽しげに話す芭蕉が嫌で、しかしそれは間違いだったと気付くと面白いように晴れた。
一度そう思ってしまうと、もうそうとしか思えなくなってしまうのはよくあることだ。今の曽良はまさにそれで、一度自覚すると気持ちが溢れ出して止まらない。
自分の師匠はこんな顔だったか。どうにもフィルターがかかっているように思えて仕方ないが、もうフィルターなしでは見ることができないのだろう。

とにもかくにも、芭蕉に今これを伝えることはできそうにない。なんとかごまかそうと考えて、曽良はある言葉を活用する時だと思った。


少々ずるい手だが、仕方ない。
縄を解き終わり、芭蕉が唇を尖らせて説明を求めてきた。

「曽良くんは一人で納得してるみたいだけど、私はまだ分かってないんだからね!どういうことか説明してよっ」

「・・・芭蕉さん」

「うん?」

「トリックオアトリート?」


新しいものが好きと分かっていて、僕があなたのために何もしないとでもおもっているんですか?
あなたの身辺のことは調査済みですので、どうぞ僕の掌で踊っていてください。



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寝ぼけてなんかよくわからない話になりました。
・・・いつものことですね、すみませんw

ノーマル細道のすれ違いです。自覚無し同士ってじれったいですね!
最後のはですね、曽良くんは最初からこの言葉の意味を知ってたんですよーっていう。
曽良くんのいいように転がされてる芭蕉さんが可愛くて好きです。
師弟愛からの恋愛感情ってのも好きです。

とゆーわけで次はヤンデレとか書きたいですね!(イミフ

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あきゅろす。
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