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秘櫁の微笑(骸綱)




 都内にある、夜更けの高級住宅街。
純白の外壁を惜し気もなく街路の外灯に照らされている厳かな邸宅の前に、一台の乗用車が停まった。
ハニーブラウンのボディが可愛らしいそのデザインは、どことなく西洋の香りを漂わせている。
車はゆっくりと道を斜めに進むと、大きな車庫の隣の余ったスペースに、何度か切り替えしをしながらバックで駐車した。
位置が落ち着くと、ヘッドライトが消える。
車内にはまだあどけなさの残る少女と、妖艶とも言える色香を放つ女性が、どちらも口元に僅かな笑みをたたえながら座っていた。


「はい、つきましたよ骸さん」
「ありがとうございます、綱吉くん」


ヘッドライトを消し、サイドブレーキまで引いたものの、エンジンを消さずシートベルトも外そうとしない綱吉という少女に、骸と呼ばれた女は軽く口付けた。
さっきホテルでシャワーを浴びたからか、撫でた髪が少し湿っている。
顔を離すと、外灯の明かりに照らされながら、綱吉は幼子のように笑っていた。
そう。まるで幼子のようなのに、この少女から溢れる空気はおよそ淫靡で不健全だ。
こんな恋をさせてしまっているからだろうか。
骸は些か不安に思いながら、まろい少女の白い頬を指で撫でた。


「骸さんの、そういう顔好き。すごくエッチな気分になる。知ってました?」
「クフ、いいえ知りませんでした。そんな可愛い事を言って、また君は…。僕を誘っているんですか?」


ハンドルに置かれた手の上に、自らの手を重ねる。
啄むように顔中にキスを降らせれば、くすくす、という甘やかな笑い声が車内に響いた。


「綱吉くん、ねぇ綱吉くん」
「ふふっ…骸さんくすぐったい」
「可愛い、可愛い綱吉くん。少しだけ上がって行きませんか?僕この間、素敵なソファを買ったんですよ。とってもふかふかなんです。いいでしょう?」
「もう、骸さんったら」


ダメですよ。旦那さんにバレちゃったらどうするんです。

言いながら、逆に骸の手をとりじろり、と睨んでくる綱吉。骸の、大切な大切な、愛しい恋人。
だけれど、頭が痛い事に、骸には伴侶がいた。
愛してなどいない。世間体のためだけに婚姻の儀を交わした、骸にとってはいてもいなくてもどちらでもいい、男。
何故結婚する前に綱吉と出会えなかったのか。そればかりが悔しくて、心苦しくていたたまれない。
夫なんていう存在のために、たかが一枚の紙切れのために、綱吉と自由に愛し合う事ができないのだ。
これ以上の後悔など、骸は今だに経験した事がない。
別に骸はいつ離婚しても構わないのだが、肝心の綱吉がそれを良しとしなかった。
あっちはそれなりに骸の事を愛してくれているのだろうが、子供がいる訳でもなし、骸は当然この愛しい少女を選ぶつもりでいたので、何故そんな事を少女が言うのか、正直よく分からない。親権問題がなければ離婚はまだ簡単で済む。原因が骸にあるので、慰謝料を払わなければならないかもしれないが。
それでも綱吉は、首を縦に振ってはくれなかった。
曰く、


「俺、骸さんの事好きだけど、骸さんの家庭まで壊すつもりはないんですよ」


それはいわば、綱吉の口癖のようなものだ。
骸が夫を蔑ろにするような発言をしたり、離婚を仄めかしたりすると、少女は決まってこの台詞を吐く。
どこまでも噛み合わない気持ちに、骸はいつも悲しくなって、僅かに震えを帯びた溜息をつく。
その繰り返し。
骸は半ば拗ねた心持ちで、綱吉の顔をこちらに向けた。
キーに手をかけ、エンジンを切る。
綱吉が丸い瞳を煌めかせて、骸を見た。


「僕は…君以外に大切なものなんてもう、何もないんです」
「………」
「君との関係がばれたって構わない。迷惑は一切かけませんから…僕の離婚に、賛成してくれませんか?」
「………」
「…綱吉くん…」


ふい、と目を逸らしてしまった綱吉に、骸は涙声になりながらも訴える。
本当に、本当に好きなのだ。
離婚する事だって、綱吉に家庭を壊されただなんて思う筈がない。それはあくまで骸の意志なのだから。

真摯な骸から顔を背けた綱吉の髪を、骸が撫でる。
静けさが広がる薄暗い車中には、微かな衣擦れと、骸の少しだけ乱れた呼吸がやけにはっきりと響いていた。





「…骸さん、したいの?」


暫く無言で撫でていた手を、逆にとられる。
驚いて俯いていた顔を上げると、小振りな唇を妖しく歪めた少女と目が合った。
綱吉は膝丈のスカートを僅かにたくし上げ、わざと脚を座席に乗せて舌なめずりをする。
幼さといやらしさの狭間を揺れ動くその危ない雰囲気に、骸は息をのんだ。
生々しい熱気に、体が犯される。


「さっきまでホテルにいたのに、骸さんてば足りないんだ…?まだ旦那さん帰って来ないんでしょ?車の中でいいから、しようよ」
「綱吉、くん…」
「ほら、骸さん…俺もまだ、濡れてるから…。どうしたい?骸さん、俺にどうして欲しい…?」


シートベルトを外し、座席に浅く座って脚を投げ出す少女に、骸の理性は呆気なく飛んだ。
性急に綱吉に覆いかぶさり、食らい付くようなキスをしながら胸をまさぐる。
ねっとりとした、それでいてベルベットのように柔らかい綱吉の唇の中は、いつだって骸を夢中にさせる。
絡まる舌の合間にもれる吐息が、骸の奥を刺激した。


「ふ…ん、んっ…んん、」
「…はぁっ…んぅ、ん…ん、ふ、」
「…ぁ、綱吉くん…綱吉くんっ」


服の上からブラジャーのホックを外し、中に手を忍ばせて直接揉みしだくと、綱吉の骸の首を抱く手の力がきゅう、と強くなった。
意図的に指先で突起を摘み、撫でたり引っかいたりすると、少女は細身を面白い程跳ねさせて、唇から熱い息を吐き出す。


「…っ、ぁん…っ」
「…可愛い…声、が」
「ふふっ…骸さん、気持ちいいよ…?」


もっとして、と言いた気に、綱吉は唾液で光る唇に弧を描きながら、自ら衣服を持ち上げて胸元を晒した。
薄暗がりに青白く浮かび上がる柔らかそうな肌に、小さく立ち上がった淡い乳首。
骸は微笑んで綱吉の頬にキスを贈ると、小さな膨らみの間に顔を埋め、愛おしいと頬擦りをした。
綱吉が優しく微笑って、骸の頭を撫でてくれる。
微かに石鹸の香りもする。
幸せな、幸せな時間。
骸は綱吉の顔を見てにこり笑うと、静かに突起を口に含んだ。
僅かに吸った後舌を出して、ゆっくりと愛撫する。
くちゅ、と音がして、綱吉の腰が揺れた。
舌に当たる硬くなった乳首が可愛くて、骸は愛撫を速めた。


「んっ…ん、は…」
「……ん、ちゅ、」
「あんっ、ん…!ひゃ…ぁあん…っ」


片方を指で弄び、片方を舌でなぞる。
時折思い出したように歯を掠めると、驚いたように体が跳ねた。
胸から口を離して首筋にキスをすると、ダメ、と言って唇を重ねられる。
少女は、痕を残されるのも苦手らしい。


「…たまにはいいでしょう?」


唇を離し、囁くように言う。
綱吉はほんのり紅く染まった顔で笑うと、ダメダメ、と首を横に振った。


「骸さんの痕見ると、一人でいる時切なくなっちゃうから、嫌」
「…ですから、僕は、」
「骸さん、骸さん今は俺だけ見て。他の事は考えないで…俺に触ってよ」


いつの間にか服の中に入ってきていた綱吉の手が、骸の大きな胸に触れた。
少女の小さな手では溢れてしまうその乳房は、夫にそうされた時でさえ何の反応も返さなかったと言うのに、細く頼りないその指で触れられると、過剰な程の快楽を骸に齎した。
くにゅ、くにゅ、と拙いながらも一生懸命に揉まれて、骸はふっくらとした赤い唇から、悩まし気な吐息をもらす。
お返し、とばかりにもう一度乳首を口に含みながら両手で揉みしだくと、綱吉は腰を僅かに揺らした。


「はぁっ…ん、骸さ…っ」
「ん…んっ、」
「骸さん、下も…下も触って…」


最後にちゅ、と音をたてて突起から口を離すと、骸はやや強引に、綱吉の膝を押し上げた。
スカートがはだけて見えた真っ白な下着にはじっとりと愛液が染み込んでいて、透けて割れ目が見えていた。


「こんなに濡らして…」


す、
割れ目に添って指を這わすと、ぴくんと跳ねる、小さな体。
まるで早くしてと急かすように、いやらしく開かれた腰は、骸の目の前でゆらゆらと揺れる。
骸はその様子を見てくすり、笑うと、そのまま先へは進まずに、曲げた少女の膝を撫でた。
こんな風に焦らすのは趣味ではないけれど、いつまでも骸の離婚に賛同してくれない綱吉に対して、少し意地悪をしてみたくなったのだ。
涙で濡れた目を不思議そうに丸めて、綱吉は骸を見る。
愛しい少女のあられもない姿を見て骸もどうしようもない程興奮していたけれど、今は加虐心の方が強かった。


「…綱吉くん、これ、自分で脱いで下さい」


スキャンティのレースを指でなぞりながら、骸は言う。
綱吉の顔が、驚きに彩られる。


「…じ、ぶん、で…?」
「ええ」
「骸さん、が…脱がしてくれない、の…?」
「ええ、脱がしてあげません。君が自分でこの可愛いパンティを取って、あそこを拡げて、僕にどうして欲しいか言うのです。僕は今、どうしてもいやらしい君が見たい。僕のために、淫乱になった君がどうしても見たいんです」


それができなければ今日はこれで終わりにしましょう。

なんて。
初めてこんな意地悪を、恋人に言った。
自分こそこれで終わりになんか到底できない癖に、今すぐにでも貪りつきたくて仕方がない癖に、変な意地みたいなものが骸の中を支配していた。
綱吉の自分に対する愛を、試してみたくなったのかもしれない。
僕のためにどこまでできますか、どこまで乱れてくれますか、と言う事を、投げつけてみたくなったのかもしれない。

綱吉は、どこか真剣な骸の色違いの瞳を暫く見つめていたが、やがてもぞもぞと動くと、自分の脚から濡れた下着を取り払った。
そして淡く恥毛の生えた襞を指で拡げると、顔を真っ赤に染め上げながら、こくり、と咽を鳴らした。
外気に晒された恥部が、ひくひくと動いて粘液を垂らしている。
その上で息づく秘芽は、確かに膨らんで顔を出していた。


「……骸さんに…俺の…」
「………っ、」
「…骸さんに、俺の…ここを、ぐ、ぐちゃぐちゃに、してほし…ですっ」
「……ああ、綱吉くん…っ」


恥ずかしさの余りか、しゃくり声をあげながら懸命に言葉を紡ぐ綱吉に荒々しく口付けて、今すぐにしてあげます、と骸は、広げられた脚の間に顔を入れると、息つく隙も与えず、肥大したクリトリスにむしゃぶりついた。
待ち望んだ肉悦に「ああっ!」と悲鳴を上げて、綱吉は首をのけ反らせる。
突起を吸い上げると大きく襞がうごめいて、膣の穴からどろりと愛液を零した。
じゅ、じゅ、と吸いながら、舌の先でえぐるように弾き、回す。
そうして十分に濡れそぼった穴に指を入れると、たまらないと綱吉の体が、大きく震えた。


「ひあ、あっ!イイッ…気持ちい…あぁ、んっ、気持ちいぃよぉっ…」
「…はぁ…っ綱吉く…いいですか…?」
「んっ、いい、はぁんっ、ん、ぁんっ…骸さんもっと、もっと激しくしてっ…壊すみたいに…!もっと…っ」


指を二本から三本に増やし、男の律動を真似て中を蹂躙する。
奥の、下腹の真下辺りのしこりのような部分を掠めると綱吉は泣き喚くように悦がって、何度も潮を吹いた。
吹き出した体液が骸の胸元にかかり、濡れた服を脱いで上半身を晒す。
自分の体の上でゆさゆさと揺れる乳房に綱吉は喜んで、手を伸ばし柔らかなそれをわしづかみにした。
はぁ、と熱い吐息が、深い色をした骸の乳首にかかる。
ぬる、と突起が生暖かい粘膜に包まれて、思わず骸も、ぁ、と小さく喘ぎを零した。


「っ…綱吉くんは、僕の胸が好きですねぇ…」
「んふ、ふふ…うん。骸さんのおっぱい、おっきくて綺麗で、ぁン、好き…」
「クフフ、嬉しい。僕のおっぱいは、綱吉くんだけのものですよ?」
「んちゅ、ふ、うれ…し、ひゃんっ…」
「…愛してます、綱吉くん」
「…ああっ!ぁ、はン、あ───っ…!」


中のコリコリした箇所を思い切り引っかくと、狂ったように綱吉は鳴いた。
浮いた腰の下に腕を入れ、中を掻き回す手とは違うの方の手で、痛々しいくらい腫れあがったクリトリスを弄る。
上下に揺れる胸の汗を舐め、再び乳首に吸い付くと、骸の肩に手が伸びてきて強い力で掴まれた。
肌に爪をたてられ、鋭い痛みが走ったが、構わず綱吉を可愛がる。
快楽が強すぎて少女が泣いてしまっても、体の奥の奥を弄ってやる。
腰の震えが激しい。痙攣している。
骸の肩に巻き付いた、腕の力が強くなった。


「やぁあっ、ああっ!こ、壊れちゃっ…壊れちゃうぅっ!」
「壊して欲しいんでしょう?僕に激しく愛されたいんでしょう?君は、っ」
「あっ…あぅ、むくっ、骸さぁんっ…!ゆび、がっ…お腹の、奥にぃっ…気持ちいいぃっ…」
「可愛い…綱吉くん可愛いですよ…とても、」
「ひぁああっイ、くぅ…っイくっ、むくろさんイくっ…ぁ!もぉイっちゃうぅ…───っ!」


びく、びくん、
綱吉の体が何度か跳ねて、ぴゅる、と潮が漏れた。
一気に脱力した綱吉が、骸の胸の中でくたりと汗だくになりながら、呼吸を乱している。
ひくつく膣の感触を少しだけ楽しみ、ぬるぬるになった指を抜いた。
濡れた指を開いてみると、くちゃりと音をたてて、指の間に透明の糸が引く。
座席のシートがぐちゃぐちゃになってしまった。
これは水拭きしなければいけませんねぇ…と、苦笑いしながら骸は湿った綱吉の額にキスを落とした。
































濡れたフキンで汚れた場所を拭き、その上に消毒された乾いたタオルを被せると、綱吉はすぐに車のエンジンをかけた。
行為の間に届いていたのか、明かりを点滅させていた携帯を開き、綱吉が受信されていたメールを読んでいる。

先程とはまるで打って変わった恋人の態度に、骸の心はまたも悲しみを取り戻した。
もうすぐ夫が帰ってくる時間だ。
綱吉とは、また暫く会えない日々が続く事になる。
ギリギリまで触れ合っていたい骸とは裏腹に、綱吉は極めてドライだ。
自分と会えない時間が、綱吉には苦痛ではないのだろうか。
さっきまであんなに激しく愛し合っていたというのに、まるであの瞬間が夢のように、現状は冷たかった。


「…んー…じゃあ、骸さん」
「あ、…はい」
「俺、そろそろ帰りますね。旦那さんに見られたらまずいし。次に会えるのは、二週間後でしたよね」
「…ええ。二週間後にまた…いつものお店で、今日と同じ時間に待ってます」
「はぁい。離れる時は寂しいですけど、また会えるまでが楽しみですよね。俺、待ったり待たれたりするの、結構好きなんですよ」


眺めていた携帯をぱちんと閉じ、約束の時間に迎えに行きますね、と言って、触れるだけのキスをされた。
綱吉のあどけない、愛らしい微笑み。幸せな時間。
なのに、何でだろう。
今、こんなにも虚しい。


「…それじゃあ、」
「…綱吉くん」
「はい?」


車を降りたところで、名前を呼んでみる。
淡々とした返事。
それは君が元々、こういう事に淡泊なせいですよね?
そうですよね?
不安は尽きる事がない。


「あの僕、明日も夜九時までなら時間とれるんです。お互い仕事が終わったら会いませんか?普通に食事とか買い物とか…綱吉くんさえお暇でしたら、」
「えっと…ごめんなさい。明日はダメなんです。会社の友達と約束してて」
「ああ…そうなんですか。それじゃ仕方ありません、ね」
「はい、凄く残念ですけど。ほんとごめんなさい、あっちが先約だから、ドタキャンする訳にいかないし」
「ええ、そうですよね。大丈夫です。僕こそ急に、ごめんなさい」
「…じゃあ、本当に」


さようなら。おやすみなさい。

微笑みながら告げられたその台詞に、骸も笑って応えた。
後は旦那さんと仲良くして下さいね。
そんな言葉も受け止めた。

閉じられたドア。走り出す車。
遠ざかる赤いランプ。点滅する方向指示機。
それを送りながら思い出すのは、さっきちらりと見えた少女の携帯画面。
開かれたメール画面には、いつも決まって骸に送られてくる待ち合わせの時の文章がそのまま、宛先人だけが違う名前で、無機質に載せられていた。































こんなぼくでもきみをあいせるんです

(きみはしんじないかもしれないけれど)



fin.

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