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その森の日々

 



あのこあのこは
さいごまで
かみさまかみさま言いながら
罪深い右手を筆頭に
消失してゆきました

あのこの頭がころころと
腐葉土の上を這う最中(さなか)
わたしわたしは楠の木の
影にひそんでおりました
ふと
葉の隙間から
見つめ合い、見つめ合う暇もなく、
ふと
この眼に映り込んだ
あのこが内からわたしをにらむ

あのこのかなきりごえ

小鳥は目覚め
ひとびとに朝を告げる為
森をくだるのですか

(あのこのかなきりごえ

木々を揺らし
朝露を蹴散らしては
森をあらうのです)

同じように
あのこが楠にひそんでいた頃
わたしは腐葉土だったのでしょう

誰かがわたしを踏みつけるまで
森の中はけがれなく
神経の中で泳ぐ魚は
いつまでも
わたしにたどり着けずに
肺の中をうろうろと

わたしの呼吸はとてもくるしく
あのこの足を握った右手が
黄金色に染まりゆくのを
ただひたすらに見つめていた

夕焼け染まる湖には
小鳥が二羽
転がり疲れたわたしの頭で羽を休め
かなきりごえが
ごぼごぼと
稚魚を蹴散らしては水を洗うのですか
ふと
水面下から
見つめ合い、見つめ合う暇もなく
ふと
この目に映り込んだ
あのこがあらった森は
夕暮れには泥に埋もれ
その
なつかしい腐臭の中で思い出すのは
後頭部を内側から
撫でる
コバエのようにやかましい手だけが
わたしを必要としていたこと

それでも朝になると

あのこあのこは
さいごまで
かみさまかみさま言いながら
罪深い右手を筆頭に
消失してゆくのです










 




あきゅろす。
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