[携帯モード] [URL送信]
side:美咲






「もしかしてここ…?」


聞いてはいたけど、あまりにデカい高級マンションを前に、僕は唖然としました。


母に渡された地図を見直して、住所まで確認して、やっぱりここだと確信しましたが、僕みたいな庶民がこれからここに住むだなんて、まるで夢のようです。


だけど、現実なんですね…。



よし、と心の中で気合いを入れて、僕は緊張気味にマンションのエントランスへと向かいました――。









始まりは、数日前のこと――。




「みーちゃん!みーちゃん!ちょっとこっち来てちょーだいっ」


出張から久しぶりに帰宅した母、弘美は到着するなり慌てた様子で僕を呼びつけました。


「母さん、まず家に着いたら“ただいま”でしょう?」

「あ、そっか!ただいまみーちゃん。――じゃなくて、急ぎで話があるのよ〜!」

「僕に?何ですか?」


母さんはいきなり落ち着き払ってコホンッと咳払いをすると、珍しく至極真剣な顔を僕に向けました。





「――母さんね、再婚しようと思うの。」


再婚…………?




「そうですか、わかりました」


少し間をおいてそう言えば、母さんは驚いたように目を見開きました。


「え!?それだけ…?」

「あ、そうでした。おめでとうございます」

「じゃなくて!再婚、してもいいの?」

「なぜです?」


僕が反対するとでも思っていたのか、母さんは僕の反応に安心したように息を吐きだすと「みーちゃんには敵わないわ」と、やんわりと笑いました。




父さんが亡くなってもう八年も経ちますし、母さんが幸せになってくれることが、僕にとっての幸せでもあります。

反対するわけがありません。



「みーちゃんたら、私が思ってるよりもずっと大人だったのね。何だか嬉しいような寂しいような…複雑な気持ちだわ」

「僕は随分前から母さんよりも大人ですよ」

「みーちゃんたら、もおっ!」

からかうように言った僕に、母さんは頬を膨らましました。


こういう仕草が子供っぽいんですよね…。


でも母さんの場合、実年齢には到底見えないほどの童顔なため、違和感がないから困ったものです。




「あ、それでね!再婚したらあちらのお宅に住むことになってるから、よろしくねっ」

「はい、わかりました。――て、何をやってるんです?」


母さんは言いながら、なぜか荷物を詰め込み始めました。
さっき帰ったばかりだから、正確には衣類のみ新しいのに取り替えているわけですが。



「あ、そうそう言い忘れてたわ!私、長期で海外にまた出張しなくちゃいけなくなったのよ〜」

「え!帰ってきたばかりなのにですか?」


母さんはそこそこ名の売れた写真家をしていて、世界中を飛び回っています。

被写体は風景や人物など様々で…僕も一度だけ、母さんの被写体として仕事を手伝ったことがありました。





.

[→#]

1/21ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!