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形勢逆転。
そう言いたいところですが――互いにボロボロの状態。勝敗の行方は予測できません。
睨み合う両者。
いつ始まってもおかしくないはりつめた空気が漂う中、肩にポンッと置かれた手に視線をあげると――
「もうお前は下がれ――ごめんな、サンキュ」
「瑠衣………」
瑠衣によって後ろに追いやられた僕は、その傷ついた大きな背中をただ見詰めました。
「あ〜あ。予想外の事態になったね。とんだ茶番劇だよ」
そんな中、銀狼の人達の間から前に進み出てきたのは、珍しく不機嫌さを隠さず眉を寄せる夏蓮くん。
対峙するように夏蓮くんの正面に立った瑠衣は、傷だらけにも関わらずそれを微塵も感じさせない穏やかな、しかし怒りを滲ませる声で言いました。
「決着をつけようぜ、日向」
「………」
夏蓮くんは感情の読めない表情のまま瑠衣の顔をじっと見つめたあと、ふと僕に視線を向けました。
「………」
その目はどこか、僕じゃない何かを探してるような―――
夏蓮くんは再び瑠衣に視線を戻すと、またいつもの顔でニッコリと笑いました。
「金城、君との勝負は別の形でするよ。」
「は?」
「俺はね、どうしたら面白いかを常に考えている。今ここでやりあっても、俺が面白いと思う結果にはきっとならない。だから――」
「てめー、一体何が言いてーんだよ」
「だからね、銀狼を解散しようと思う。」
夏蓮くんの衝撃的発言に、一番驚いたのは銀狼の人達でした。
「銀様!どういうことですか!?」
「解散なんて冗談っすよね?」
「銀様!!」
いきなり総長から解散を告げられたチームの人達は、夏蓮くんに詰め寄り始めました。
しかし――
「何か俺に、文句あるわけ?」
絶対零度の恐ろしい眼光に、口を閉ざしたのは言うまでもありません。
総長の意思を誰にも変えられないとわかると、銀狼の人達は肩をおとしトボトボと倉庫をあとにしました。
戦意を削がれたブラックスターの人達も、怪我を負っている仲間の手当てのため倉庫から出て行き、残ったのは夏蓮くんと瑠衣、そして僕だけとなりました。
「どういうつもりだ、日向」
静かになった倉庫内で、暫しの沈黙を置いて口を開いた瑠衣。
「誤解しないでくれよ。君との勝負はまだ終わってないんだから」
「当たりめーだ。俺だってテメーをやらねーと気が済まねー」
「君は野蛮なことしか頭にないのかい?僕は“別の形”でと言っただろう。」
「別の形…?」
「――美咲を、俺のものにする」
いきなり名前を呼ばれ肩をあげる僕に、半月に細められた銀の瞳が向けられました。
それは冷たいものではなく、どこか熱っぽい視線で思わずドギマギしていると――
「美咲は、渡さねーよ」
中々僕の名前を口にすることのない瑠衣が、夏蓮くんに向かって真剣な声色で言いました。
その反応を面白そうに眺めたあと、クスクスと笑いを漏らす夏蓮くん。
「そう、じゃあ精々頑張れば。俺も負ける気はないから」
手をヒラヒラと振って、僕の横を通り過ぎて行った夏蓮くんは最後に「これから楽しみだよ」と意味深に呟くと、倉庫から姿を消しました。
「おい大丈夫か?」
僕の元にやって来た瑠衣は心配そうな眼差しで、怪我がないか上から下へと視線を走らせました。
そんな瑠衣のほうが、ボロボロじゃないですか…
だけど、僕を心配してくれてる瑠衣に不謹慎ながら嬉しさを感じる自分がいました。
「僕は大丈夫ですよ。瑠衣のほうが傷だらけです。早くお家へ帰って手当てしましょう?」
「これくらい、大したことない」
「駄目です。血がでてるじゃないですか!ちゃんと消毒しないと…」
「お前こそ、手に血が付いてるじゃねーか」
「これは僕のじゃないですよ。――ねぇ、瑠衣」
倉庫の扉に手を掛けた瑠衣に呼び掛けると、「あ?」と振り向いた瑠衣に僕はニッコリと笑いかけました。
「今度から、さっきみたいに僕のこと名前で呼んで欲しいです」
「ッよ、呼んでんじゃねーかよ」
「呼んでませんよー。いつも、オイとかお前とかです」
剥れてそう言うと、瑠衣は少し顔を赤らめながら小さく言いました。
「………努力する」
僕らの距離が、少しだけ近付いた気がしました――。
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