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side:瑠衣



「金城!いくらなんでも無謀すぎんだろっ!オイッ、藍も止めろって!」

「なんでさぁ〜?俺は大賛成だよ☆だってぇ、獲物を独り占め出来るじゃんっ」


全くこいつらは、と呆れたように米神を押さえる神崎とその横で鼻歌混じりでそんな神崎の髪をわしゃわしゃとかき混ぜる高梨。



俺達三人は連れだって、繁華街から外れた一画にある人通りの少ない倉庫街へと来ていた。

事前に神崎によって目星を付けられていた銀狼の溜まり場だ。


神崎が無謀と言うのも無理はない。

こっちは三人。

敵の本拠地に乗り込むにはあまりに頼りのない数だ。


「一応チームの奴らには声かけておいたけどよ」

さすがに根回しのいい神崎は、ここに来る途中に連絡を回していたらしい。

後先考えない俺に喧嘩バカの高梨にはこういったことは出来ないだろう。



「で、どうするよ?いきなり突っ込んで行っても勝ち目ねーと思うんだけど。」


壁に身を寄せて一際デカい倉庫を窺うと、出入口近辺には十数人の輩が見張りを兼ねてか立っていた。

あのくらいの人数なら俺と高梨だけで十分伸せるだろう(因みに喧嘩の弱い神崎は戦力外)。


しかし相手は銀狼。
どこに仲間を潜ませているかわからない…。


倉庫内には一体何人いるのか…だけど今の俺にはそんなこと、どうでも良かった。


「おい、金城待てって!」

「ルンルン抜け駆けはなしよ☆俺も行く〜」


制止する神崎も無視して、俺は倉庫の前にたむろする銀狼の奴らに近付いて行った。

その中の一人が俺の姿に気付き、全員に目配せを送る。

すると、ニタニタと悪者染みた笑いを浮かべ始めた奴らは、俺と高梨を取り囲むように逃げ道を塞いだ。


誰も逃げねーっつーの。



「たった二人かよ」

「まんまとボコされに来たのか〜?」

「星都の悪魔と殺戮ピエロを殺れるなんて今日の俺ってツイてる〜!」


そんな浮かれた言葉を投げ掛けてくる銀狼の奴らは、ジリジリと俺達ににじり寄り今にも飛びかかって来そうな勢いだ。

緊迫した空気の中それを破ったのは、ケタケタと笑いだした高梨だった。


「ルンルン、もう俺我慢できないやぁ――殺ッテモイイ?」


ギラギラと獰猛な瞳をたぎらせる高梨は、既に暴走スイッチが入ってしまったらしく俺の返事など待たぬうちに――近くにいた一人に回し蹴りを喰らわした。


呻く間もなく吹っ飛ばされたそいつは、地面に倒れたまま動かない。


「て、てめーっ!」


それが合図となり、一斉に襲い掛かって来た銀狼の奴ら。


飛んで来た拳を軽く交わしたところで、俺の前に高梨が立った。


「瑠衣はミチャのとこ行って。ここは俺に任せてよ☆」


パチンと軽くウインクを寄越してきた高梨にキモいと突っ込む余裕もないので首だけ立てに振り俺は倉庫の扉へと駆けた。



「待て金城っ!――ウッ、」

行かせまいと扉の前に立ち塞がる二人を頬に一発、鳩尾一発拳をめり込ませ退かせたあと、扉に手を掛けた。


後ろでは、やっと到着したブラックスターの奴らが加勢に入っていた。
高梨の方はこれで安心だろう。
逆に獲物を横取りされたと高梨は剥れているかもな。


ガラッ

鉄の扉を開けると中は閑散としていて、隅のほうに置かれたソファーに目を留めると――そこには、探し求めていた美咲の姿があった。

しかしそれも一瞬のこと。


「みさ―――」

声を掛ける間もなく、四方から物陰に潜んでいた銀狼の奴らが俺を取り囲んだ。


早くこいつらを伸して、美咲の元へ行ってやる。


そう思っていたら、人だかりが開きそこから憎たらしい笑みを浮かべる日向が姿を現した。


「一人で突っ込んで来るなんて、君はよっぽど美咲が大事なんだね。」


可笑しそうにクスクスと笑う日向に、俺は低く唸った。


「あいつを返してもらおうか」

「実はね、君をおびきだすためだけのつもりだったんだけどさ――美咲を、渡すつもりはない。俺にとってもあの子は、特別だから。」

「テメーッ!」

日向の言葉に、目の前がカッと赤くなる。

頭に血が上った俺は、日向に掴みかかった。



「――君がここに来た時点で俺の勝ち。美咲は俺のもの。いとおしい人の前で、たっぷり殺られなよ、金城」


日向は銀の瞳を半月形に細めると、胸ぐらを掴んでいた俺の手を払った。

それが開始のゴングのように、周りを囲んでいた奴らから足や腕が飛んでくる。


「ッ、」

受け止め切れなかった蹴りがもろに鳩尾に入り軽く呻く。



………数が多すぎる。


伸しても伸しても、美咲に手が届くのは程遠い気がして―――。







「おらどうした!もう終わりかよっ」

「何が星都の悪魔だ、調子乗ってんじゃねーぞ!」

「ハハハッ!金城のこんな姿拝めるなんてマジサイコー」


俺は今までにないくらい、酷い有り様だった。

まさに袋叩きだ。

何度立ち上がろうが、その度に脇腹や顔に拳が飛んでくる。

かわしたり反撃する力も徐々に勢いが衰え、雑魚共にいいようにされてる……だけど、倒れるわけにはいかなかった。


俺を奮い立たせるのは、視界には入らずとも傍にいるあいつの存在。

あと少しで、あいつの笑顔を取り戻せるんだ。俺だけの――


美咲…





「――僕の大切な人を傷つけるのは、許さない。」

揺れる視界の中、耳に響いたのは鈴の音のような声。

だけどその声には僅かな怒気が含まれていることを、普段のあいつの声を知る俺にはわかった。





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あきゅろす。
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