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悔しそうにむくれる母さんに苦笑いして、コーヒーを差し出すと僕も隣に腰かけました。

「僕もビックリしました。何で瑠衣はあそこにいたんでしょう…」


僕がモデルをしてることはあの時まで知らなかったはずなのに…。

よくよく考えてみたらおかしいな、と首を傾げていると――何やら目を細め怪しげな笑みを向けてきた母さん。


「ねぇねぇみーちゃん」

「何ですか?」

「瑠衣くんとは、うまくやっていけそう?」

「はい、勿論ですよ。昨日、お互いの気持ちを確かめ合って瑠衣も僕のことを好きだと言ってくれたばかりです。やっぱり兄弟っていいですね」


思い出してつい頬を弛ませる僕に、母さんは目をキラリと輝かせると僕の手を素早くとりました。


「みーちゃんっ!私もうたまんないわ〜っ。まさか息子たちがそんな仲に――いえ、みーちゃんは鈍感だからまだ気付いていないか…でもうまくいけば不良攻の可愛い受…最高すぎるぅぅ〜〜」

頬を紅潮させ夢見る乙女のような表情を浮かべる母さんは、僕がよくわからない用語をペラペラと話し続けました。

生びーえる?とか何とか…言っています。
生ビールの間違いでしょうか。



「あの、母さん一体何を言いたいんですか?」

暴走気味な母さんに落ち着いて問いただすと、


「――あ、ごめんなさい!みーちゃんにはまだ刺激が強すぎるわよね。つい興奮しちゃったわぁ!とにかく、私は断然応援するからねっ。兄弟だろうと関係ないわ!寧ろそのシュチュはかなりの萌え要素になるし〜」


「………母さん、やっぱり僕にはわかりません」

「つまり、私が言いたいのはね……まぁいいわ。――あ、そうそう。実は今度、写真展を開くんだけど、そこで息子達の写真を載せたいの。つまり、みーちゃんと瑠衣くんのね。いいかしら?」


母さんは年に数回、都内にある大きなホールを貸し切り個人で写真展を開いています。

評判も良く、母さんの写真のファンになった人達が毎年大勢訪れます。


僕も何度か見に行ったことがありますが、普段目にしているのほほんとした母さんが撮っているだなんて想像できないほど、素晴らしい写真が並んでいました。

そこに今回、母さんは僕と瑠衣の写真を載せたいと…


「僕は構いませんけど…」

roseとしてではなく、結城美咲として母さんに撮ってもらうのは初めてです。


「本当!?良かったぁ〜!でね、瑠衣くんにはみーちゃんから頼んでみてくれないかしら?」

「わかりました。聞いてみます」


お願いねと母さんは笑って、僕が淹れたコーヒーに口づけました。












「―――てことなんだけど、どうですか?」


学園へと向かう電車の中、瑠衣に母さんから頼まれた用件を伝えると――まだ眠いのか目を擦りながら瑠衣は「別にいいけど」と、小さく答えました。


「良かった。きっと母さんも喜びます」




それにしても…

つり革を楽々と掴んでる瑠衣に引き換え、僕は込み合う電車内の中、他の乗客に潰されそうになりながらも、瑠衣から離れないように必死につり革を掴んでいる状態。

背の高い瑠衣が羨ましいです。



そんな自分のコンプレックスに肩を落としていると、背後にむず痒い違和感を感じました。




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