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たが、美咲からの応答はない。
……寝ちまったのか。
少しだけ落胆してる自分がいた。
向かいの自室に戻るか、と踵を返したところで――カチャリ、と開くドアの音。
足を止め振り返ると、眉根を寄せ今にも泣き出しそうな美咲の姿があった。
初めて見るそんな顔に、思わずギョッとする。
「起きてたのか」
「……はい」
小さく呟かれた返事は、少し震えていた。
続く言葉が、でてこない。
否、どうしたんだ、とか一人で寝れそうか、とか…頭には浮かんでくるのに、俺の頑丈に閉まった口からでることはなかった。
美咲も何も話そうとしないためお互い無言のまま廊下に立ち尽くす。
何だよ……
俺は喋るの得意じゃねーんだよ。
お前が喋らねーと、どうしたらいいかわかんねーだろ。
「瑠衣、あのっ……」
やっと口を開いた美咲は、意を決したような真剣な眼差しを俺に向けてきた。
少し戸惑いがちに言葉をとぎらせて、手をギュッと握り何かを耐えているように見えた。
「何?」
なるべく、自分なりに優しく言ってみた。
美咲は大きな瞳を潤ませ、長い睫毛をしばたたかせた。
「――瑠衣は……僕のこと、どう思いますか?」
「………は?」
いきなりの質問に、反応が遅れた。
美咲は至って真剣な様子で、俺の言葉を待っている。
どう思ってるって…
「高梨に何か言われたのか?」
「藍ちゃん?いえ、何も……」
あいつのことだから悪乗りして美咲にも何か吹き込んだのかと思えば、違うらしい。
じゃあ美咲は何でそんなことを聞くんだ。
しかも泣きそうな顔で。
そんな顔をしてるのは……俺のせいだったのか?
「こっち来い」
「え、」
俺は美咲の腕を掴み、無理矢理自室に連れ込んだ。
廊下に突っ立ったまま話すんのもなんだし。
美咲を部屋のソファーに座らせ、俺は目の前に屈みこむ。
悩ましげに歪んだ顔を、笑顔にさせたいと、ただそれだけを思った。
「あのな、どう思ってるって俺はお前のこと……」
……俺は、何を言いそうになってるんだ。
きっと高梨のせいだ。
だから今日の俺は頭がおかしい。
そう思えば、続きを言うのがいくらか気が楽だった。
美咲が明日なったら忘れてればいいと願いながら―。
「――好きだ。」
口にだしてみたら、心にあった重いものがスッと取れた気がした。
………あぁ、そうか。
高梨、お前の言う通りだ。
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