side:瑠衣
高梨のアホが言ったことなんかどうでもいい。
そう思うのに、頭ん中で何度もリピートされる言葉に苛々が募っていく。
『ミチャのこと、好きでしょ?』
それに頷くことは出来なかったが、嫌いではない。
ただ、大事にしたいと思う。
それが恋愛感情としての好きか何て、俺にはわからない。
今まで、心から好きだと思った相手がいない俺には。
付き合う付き合わないだの面倒くせー繋がりなんかウゼーだけだから、寄ってきた女を適当に抱いて。
それだけの関係、それまでの関係。
それが楽だったし、ただ快楽を楽しむだけのほうが性に合っていた。
だがそれ以上を求めてくる女も、中にはいる。
私を愛して、私だけを見て、私を――。
そう、涙ながらに懇願する。
普通なら頬を伝う滴に心が揺らぐのかもしれないが、俺はそれを冷めた気持ちで見ていた。
吐き気がする。
コンコンッ
『瑠衣ー、ご飯出来ましたよ』
美咲の声が聞こえ、一旦思考が逸れる。
ドアを開けると笑顔の美咲が、今日の献立を楽しそうに話し始めた。
「――どうかしたんですか?」
俺の顔を窺うように首を傾げる美咲。
どうかしたかだって?どうかしてるよ、俺は。
こんなに心を掻き乱す、お前のせいで。
無性に腹が立つ。
だけどこれは、美咲のせいなんかじゃない。
頭ではわかってるのに、言葉がでてこなかった。
リビングに出ると、親父の隣に見知らぬ女が居た。
俺に気付くと、嬉しそうな笑顔で近付いてきて手を握ってきた。
「あなたが瑠衣くんね!ちょー男前〜!私、弘美って言います。これから宜しくねっ」
すぐにわかった。
この人が、美咲の母親だと。
笑った顔が、美咲によく似ていたから。
弘美さんは「いつかはママって呼んでねぇ☆」と言いながら俺を席に座らした。
「瑠衣、美咲くんは?」
向かいに座る親父に言われ廊下に目を向けると、少しして美咲が重い足取りで歩いてきた。
俺に一瞥をして席に着いた美咲は、何だか顔色が悪そうに見えた。
さっきまでニコニコと楽しそうに喋ってたのに、どうしたんだ?
「家族全員揃ったことだし、食べましょーか?私もう我慢できな〜い!いただきまーす☆」
美咲の様子を不審に感じながらも、空腹のせいで頭は目の前の食事に向けられた。
あとで後悔するとも知らずに―――。
――――
夜、昨日寂しそうに俺の部屋にやってきた美咲は、今日は来ない。
ソワソワしながら待っていた自分が馬鹿らしい。
美咲だって男だし、添い寝する相手がいなくても大丈夫なんだろ。
そう自分なりに解決したはいいが、いざベッドに横になってみると――右側に空いたスペースが、物悲しげに思えた。
「チッ、なんだっつーんだよ」
反動で上体を起こし、俺は美咲の部屋へと足を向けた。
「――おい、起きてるか?」
いざ扉を前にすると何と声をかけたらいいのかわからず、暫く考えた末にそう言ってみた。
寝てたらってことも考えて、ノックはせずになるべく声を落として。
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