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脛を押さえながら呻く高梨を無視して窓の外に目を向けていると、振り向いた美咲が俺におずおずと話しかけてきた。
「瑠衣、あの…今日家で太一と勉強会をしようと思ってるんですけど、いいですか?」
なんで俺に聞くんだよ。
……あぁ、きっとまだ自分んちという意識が持てないのか。
「……お前の家でもあるんだから好きにすればいい」
そう言ってやると、美咲は嬉しそうに笑った。
可愛すぎる……!
そう思ったのは俺だけではなかったらしく、俺が近くにいることで美咲を遠目から見ていたクラスの奴らも、何人かが股間を押さえ教室を足早に出て行った。
何を考えてんだあいつら…マジ殺す。
想像してんじゃねーよ。美咲が穢れんだろがっ!
―――
帰り道。
自宅で勉強会をすると言っていた美咲の隣には太一が肩を並べていた。
「そういや金城んち行くの俺初めてだ!」
「そうなんですか?すっごく広いんですよ!僕初めて来たとき驚きましたもん」
そしてなぜか俺の横には全く関係のない高梨。
勉強会のことを聞くと「太一が行くなら俺もぉ☆」と言って軽いノリでついて来やがった。
「二人が勉強してる間、俺は瑠衣と遊んでよぉ〜っと」
「誰が遊ぶかよ。めんどくせー」
「もう冷たいんだからぁ」
頬を膨らます高梨に「キモい」と冷めた顔で言ってやったがそれでもめげずに俺に絡んでくる高梨を半分無視していたら、あっという間に俺んちまで着いた。
「「お邪魔しまーす!」」
(美咲が)二人を招き入れ神崎は部屋の数やリビングの広さに声をあげる中、高梨は慣れた様子で真っ直ぐ俺の部屋へ向かった。
あいつは前に一度来たことがあるから、大体家の間取りは把握してる、にしても勝手にズカズカと…図々しい奴。
「太一、僕お茶用意するんで先に部屋に行っててくれますか?」
「うん、わかった」
美咲に部屋の場所を教えられ、廊下を進んで行く神崎。
リビングには俺と、カウンター越しのキッチンで茶を用意する美咲だけとなった。
「瑠衣も何か飲みますか?」
「あぁ、コーヒー頼む」
「わかりました、藍ちゃんも同じもので大丈夫ですかね?」
「あぁ」
カチャカチャとカップが擦れる音だけが響くリビング。
特に話すこともねーのに、美咲の手元をじっと見つめてしまった。
そんな俺に何の不審も抱かずニコニコとコーヒーをカップに注いでる美咲。
「瑠衣は勉強しなくてもいいんですか?」
「はっ?」
ついボーッとしてたらふいに顔をあげた美咲に声をかけられ思わず変な声がでた。
「僕の場合、覚えるのが遅いから試験前になると試験に集中するためにバイトもお休みさせてもらってるんです」
「じゃあ暫くはモデルの仕事ねーのか」
「はい。一応学業優先にさせてもらってます。けど試験が終われば休んだ分、過密スケジュールになりますけどね」
苦笑いを浮かべ、トレーに四つのカップを載せた美咲はキッチンを出た。
まあ、街中で大々的に写真集の宣伝をするほど、美咲の――roseの人気はかなりのものなのは確かだ。
俺はあまりそーゆーのに興味がねーから知らなかったが。
写真集をこっそり買い(もうバレたが)、部屋に籠って見てみたが人気になるのもわかる気がした。
身内の贔屓目なのかもしんねーけど。
でも写真の中の美咲は、美咲であって美咲ではなかった。
roseという、別人。
なぜだか遠い存在のように思えて、仕方がなかったんだ―。
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