side:瑠衣
「銀狼を潰す」
声を抑え言うと、高梨は「了解っ☆」と待ってましたとばかりに顔を輝かした。
高梨はこう見えても、大の喧嘩好きだ。
チーム同士の抗争が起きると、先陣をきって飛び込んで行く。
喧嘩もそれなりに強く、ヘラヘラとした顔のまま暴れまくることから巷では『殺戮ピエロ』なんて通り名まである。
誰がこんな恥ずかしい名をつけたんだか…俺ならつけた奴をぶっ飛ばすところだが、高梨自身は気に入ってるらしい。
因みに神崎は『鷹の眼』。
鋭い洞察力でどんなチームの動きも予測し、先を読んで戦略を立てる言わばチームのブレインだ。
「ら、来週から始まる期末試験の予定表を配ります」
「「えぇ〜〜〜〜」」
SHR中、担任の言葉に教室中から不満の声があがった。
そういやもうそんな時期か。まぁ、どうでもいいけが。
この学園は大学までのエスカレーター式で、あまりに成績が悪くない限りは留年なんてことはあり得ない。
赤点を取れば補習は必至だが。
だから試験前と言っても必死こいて勉強する奴らは少なく、補習組はクラスの半数以上なんてことはザラだ。
しかし今回の期末試験の場合、赤点をとれば夏休みが補習で消えることになる。
誰だって夏休みまで学園に通って勉強なんぞはしたくはないだろう…
「あ、赤点を取らないようみ、皆さん頑張って下さいね!」
オドオドしながらも励ましの言葉を述べた三橋が教室から出て行くと、前のほうからこの世の終わりのようにうちひしがれた神崎の声が聞こえてきた。
「やべーよ〜俺マジでやべ〜〜〜って」
「太一、僕が教えられるところは教えますから、一緒に頑張りましょう?」
美咲の表情は見えないが、声の調子からきっと天使のような微笑みを太一に向けていることだろう。
美咲の言葉に、天の助けとばかりに目を輝かした太一は美咲の両手を掴んだ。
「ありがとう美咲!マジ頼むよっっ!」
美咲の手を握ったまま中々離さない太一にムカつきを感じていると、俺の視線に気付いた太一と目が合う。
すると、一気に顔を青くした太一は美咲から勢いよく手を離した。
俺の言わんとしてることが伝わってなによりだ。
「ねぇ、ルンルン☆」
そんな中、俺の横まで来て小首を傾げ声をかけてきたのは高梨。
目だけでなんだと訴えると
「瑠衣も今回の期末試験は頑張らないとだよねぇ〜?いっつも補習組だし☆」
「あ?なんでだよ。面倒くせー」
俺にとっては勉強するよりか補習で休みが潰れたほうがマシだ。
家でダラけるよりよっぽど健康的だろうが。
「だってぇ、夏休み中ミチャと遊べなくなっちゃうかもなんだよぉ〜?」
「………」
ニタニタと悪戯じみた笑いを向けてきた高梨から顔を背け俺は考えた。
………高梨の言ってることも一理ある。
美咲はこっちに来て日も浅いし近くに親しい友人もいないだろう。
夏休み中、俺が補習へ行ってる間あいつは家で一人ってことになる…。
「……」
寂しそうな美咲の顔が浮かぶ。
だが美咲も赤点を取らないという保証はない。
俺が奇跡的に補習を免れたとしても、それじゃ意味がねー。
「ミチャが前にいた明星高校って、メチャクチャ頭い〜んだって☆」
知ってた?とまるで俺の思考を読んだように言ってきた高梨を横目で睨む。
「何でテメーがそんな情報知ってんだよ」
「ふふふ、秘密だっちゃ☆」
ふざけてはぐらかす高梨に、それ以上聞くのをやめた。
美咲が頭いいってことはわかった。
ならば、俺が赤点を取らないようにするしかない。
「頑張ろうねっルンルン☆――イタッ!」
高梨に言われてやるっていうのは何だか癪だと思った俺は、腹いせに机の間から奴の脛を思いっきり蹴ってやった。
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