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夏蓮くんがそう言った直後、後ろから大きな音がしました。
振り向くと瑠衣が怖い顔つきで立っていて…
夏蓮くんはなぜか、そんな瑠衣にクスッと笑いました。
瑠衣のあんな顔を見ても笑えるなんて…夏蓮くんて一体何者なんでしょうか?
「すっかり君の存在を忘れてたよ、金城くん」
小首を傾げからかうように言う夏蓮くんに、瑠衣は無言のままツカツカと目の前まで来ると
「こいつに何かしたら……殺スぜ?」
口端をあげギラギラとした獰猛な目付きを夏蓮くんに向けました。
瑠衣のこんな顔、初めて見ました…。
僕でも少し怖いと感じる瑠衣に、夏蓮くんは可笑しそうにクスクスと笑い始めました。
「美咲は君の特別なの?ますます面白いね。だけどね、俺は君の大切なモノほど壊してみたくなるんだよ。わかってるだろ?」
顔は笑顔なのに、銀色に光る目だけは飢えた獣のような夏蓮くんに、背筋がゾクリとしました。
「そうか。なら、ここでテメェを殺ってやる」
「いいのかい?校内で俺に手を出せば、どうなるかぐらいわかるだろう」
瑠衣は鼻で笑うと、夏蓮くんの胸ぐらを掴み静かに言いました。
「関係ねーよ」
振り上げられる、瑠衣の腕。
校内で暴力なんて振るったら…!
嫌な予感が頭を駆け巡り、僕は慌てて瑠衣に飛び付きました。
「駄目です瑠衣っ!」
瑠衣の腰にしがみついて、キュッと目を瞑りました。
二人の会話からして、僕が原因で瑠衣が怒ってることは明らかです。
僕のせいで瑠衣が罰を受けることになったら、それこそ耐えられません。
祈るような気持ちで瑠衣の怒りが鎮まるのを待っていると、少しの間のあと瑠衣の腕がおろされました。
それにホッと息を吐き体を離すと、なぜか瑠衣は真っ赤な顔で俯いていました。
「つまらないな」
不機嫌さを滲ませる声色で夏蓮くんはそう呟くと、僕に視線を向けました。
「美咲、俺を退屈にさせないでよ」
いいところだったのに、とニコリと笑った夏蓮くんの目は酷く冷たくて、怖くなった僕は視線を逸らしました。
何だろう、この背中に嫌な汗が流れるような感覚は…
「興ざめだ。今日はおいとましよう。それじゃあ今度は、夜の世界で」
夏蓮くんはニコリと笑うと、僕に小さく手を振って教室から出て行きました。
「美咲大丈夫か?あの野郎の言ったことなんか気にすんなよっ」
肩の力が一気に抜けて、ハァと脱力していると太一が心配そうに顔を覗きこんできました。
僕を気遣ってくれた太一にやんわりと笑って、大丈夫ですと頷くと、今まで傍観していた藍ちゃんが口を開きました。
「あ〜あ、瑠衣のせいでミチャが目つけられちゃったじゃん」
どうすんのー?と笑顔で瑠衣に訪ねる藍ちゃん。
瑠衣は、僕には聞こえない小さな声で何やら呟くと自分の席に戻りました。
瑠衣の言葉を聞いた藍ちゃんは、ニヤッと歯を覗かせると「了解っ☆」とそれに答え笑顔を深めました。
「あの日向って奴さ、あー見えても族の頭なんだぜ」
そんな二人の様子を見つめていると、前に座る太一が身を乗り出して言ってきた言葉に、僕は驚きで目を見開きました。
あの一見物腰の柔らかい感じの人が…?
確かに、背筋が凍るような冷たい笑顔だとは思いましたが……何だか想像つきません。
僕の中の暴走族のイメージと言えば『特攻服を着た派手な人たちが派手なバイクに跨がって木刀を振り回しながら夜の街を走ってる』感じですし。
「全然そんな風には見えませんね」
「まぁ、あいつ校内ではいい子ちゃんぶってるからな。“銀狼”ってチーム、聞いたことねーか?」
「………いいえ」
「美咲が知るわけねーか。銀狼ってーのはな、ここいらで俺ら(ブラックスター)と同じくらい名の知れたチームなんだけどさ…やり口が汚いことで有名なんだよ」
太一は苦虫を噛んだような顔つきをしました。
「やり口が汚いって、どういうことですか?」
教室内に先生が入ってきてSHRが始まってしまったため、極力声を潜めて言うと太一も小声で返してきました。
「聞いた話じゃさ、他のチームの頭を尾けて一人になったところを集団で襲ってリンチしたりとか。あと薬漬けにして従わせたりとか」
……僕には刺激が強すぎます。
だけどこめかみを押さえながら太一に続きを促しました。
「それで、なんでここに来てたんですか?」
「ただの好奇心だったんだろ、最初は。噂の可愛い転校生見たさにさ。けど…思わぬ収穫を与えちまったみてーだけどな。」
「可愛い転校生?僕以外に転校生がいるんですか?」
「は?お前無自覚かよ!ありえねーっっ!」
いきなり大声をあげ立ち上がった太一に、クラス中の視線が集中したのは言うまでもありません。
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