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口を尖らし不貞腐れている達也さんに、瑠衣は鬼のような形相で睨みつけました。
もう、食事もゆっくりしていられません…。
――――
朝、登校すると教室の前には人だかりが出来ていました。
「夏蓮様ステキー!こっち向いてぇ〜」
「ちょっと押さないでよ!夏蓮様が見えないじゃないかっ」
「あ〜今日も何て麗しいお姿なんだろう…」
背が低めの女の子のように可愛らしい容姿をした人達が、中を覗きながら頬を染めています。
「何事でしょうか?」
異様な光景に隣の瑠衣に目を向けて聞いてみると、不機嫌そうに眉間を寄せるだけで答えてはくれませんでした。
「退け」
瑠衣はおもむろに人だかりに近寄ると、ドスの効いた低い声で一喝。
ビクリと肩を揺らし一気に顔面蒼白になった周りの人達は、口を閉ざすとサーッと脇に避けて道を空けました。
やっと入れるようになった教室に瑠衣のあとについて僕も入って行くと…
教室内もまた、異様な雰囲気に包まれていました。
窓際を避けるようにして身を廊下側に寄せ合ってるクラスメート達。
重苦しい空気が漂っていて、シンッと静まり返っています。
そんな中、僕らに気付いた藍ちゃんが場にそぐわない飄々とした調子で声をかけてきました。
「瑠衣〜ミチャ〜おはよ☆」
ブンブンと手を振ってる藍ちゃんに、朝から元気だなぁと思っていると、藍ちゃんの隣に佇む見知らぬ人に気付きました。
スラリと伸びた肢体に、長い栗色の髪。
その人に対して、今にも噛みかかりそうなほどに睨んでいる太一。
「どうかしたんですか?」
藍ちゃんにこっそり聞いてみると肩を竦めて「さぁーねぇ☆」と笑顔ではぐらかされてしまいました。
睨み合う太一と見知らぬ人を、オロオロしながら窺っていると…
「何の用で来やがった!」
「君のようなお猿さんに用なんてないよ。」
「だ、誰が猿だっ!」
牙をむく太一。
一方、相手は終始笑顔のまま流れるような動作で長い髪を払いました。
瑠衣は仏頂面で席に着いてから、窓の外に目を向けまま興味なさげにしています。
藍ちゃんは愉快そうに見ているだけで、止める様子はありません。
………僕しかいないみたいですね。
「あ、あのー…」
恐る恐る声をかけてみると、二人の視線が僕に向けられました。
長い髪の人は僕を見て一瞬目を細めましたが、すぐに笑顔に戻ると手袋をしている手を差し出してきました。
何でこんな時期に手袋なんかしてるんでしょう…
「初めまして。君が噂の転校生だね?俺は星都学園の生徒会長をしている、日向夏蓮だよ」
「は、初めまして…結城美咲です」
そっと手袋を握ると、なぜか日向くんは驚いたように目を見開きました。
そして「面白いね、君」と低い声で呟くと、ニコニコとした笑顔を近付けてきました。
「俺、君に興味があるんだけど。今日の放課後、生徒会室に来てくれない?」
銀色の瞳が蛇のように細められ、なぜか怖くなった僕は少し身を引いて首を横に振りました。
「そんなに怯えないで大丈夫だよ。ま、気が向いたらおいでよ。それから俺のことは夏蓮でいいからね……美咲」
ガタンッ・・・!
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