side:美咲
――――
「はい、お疲れ〜」
「お疲れ様ですっ」
カメラマンさんに頭を下げて顔をあげると、先のほうから見知った人物が駆け寄って来るのが見えました。
「ローズちゃ〜ん!今日も完璧だったわ〜」
内股で近付いてきた辻堂さんは僕にガバリと抱き着くと、人目もはばからず頬を擦り寄せてきました。
いつものことなので苦笑いを浮かべていると
「美咲から離れろ」
隣の悪魔、いいえ悪魔の扮装をした瑠衣が、鋭い眼光で辻堂さんを睨み付けました。
「怖〜い。そんなに睨まないでちょーだいっ。せっかくのイケメンが台無しよ〜」
辻堂さんは僕から離れ瑠衣に近付くと、頬をツンツンと突っつきました。
ヤバいです。瑠衣の顔が益々悪魔のように…
「えっと…瑠衣、この人は僕のマネージャーの辻堂さんです」
辻堂さんの腕を引っ張り瑠衣から離して紹介すると、顔を緩め少しだけ瑠衣の警戒が解けたように見えました。
「よろしく〜辻堂翼で〜す!」
「………」
「…辻堂さん、それでこの人は僕のお、弟の瑠衣です」
弟、だなんて初めて言ったから何だか恥ずかしいです。
「弟〜?ローズちゃん一人っ子じゃなかったの〜?」
「そうなんですけど…母が再婚して、それで…」
「あぁ、義理の。ふぅ〜ん…」
辻堂さんは舐めるような視線で瑠衣を見ました。
この目はもしかして…
「事情は何となくわかったわ。さっき予定してたモデルが体調不良で来れなくなったって連絡が入ってたのに、なんで撮影してんのかなーと思ってたのよ〜」
当初予定されていたモデルがなぜ瑠衣になったのか、察しがついたのか辻堂さんは何度か頷くとビシッと瑠衣を指さして大声で言いました。
「あなた、本気でモデルやってみない!?」
あぁ、やっぱり。
美形を見つけると勧誘してしまう辻堂さんのレーダーに、瑠衣は引っ掛かってしまったみたいです。
しかし返ってきた言葉は実に素っ気ないものでした。
「嫌だ。」
そう瑠衣に即答され、少しも興味がないことを感じとった辻堂さんは、残念そうにガクリと肩を落としました。
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