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女の誘導で廊下を抜け出たところは、広いホールのような部屋だった。
数十人の人間がその中を忙しなく動き回っている。
カシャ、という音が聞こえ目を向けるとそこにはカメラを構える人間と、写真を撮られている金髪の女が居た。
「ほら、何やってんの!早く行きなさいっ」
俺に色々やりくさった女に背中をグイグイ押され、撮影真っ只中の金髪の元へ行かされた。
面倒なことになってきたな、と頭を掻いているとカメラを構えていたオヤジが「やっと来たね」と朗らかな笑みを向けてきた。
「じゃあ君、rose-ローズ-と寄り添って。今回の商品である香水は“甘い誘惑"がコンセプトになっていて、二人は天使と悪魔の役なわけだけど、天使であるroseに悪魔である彼が惹かれてしまうっていう禁断の愛がテーマなんだ。」
ご丁寧に説明をしてきたカメラマンのお陰で、俺はどっかのモデルと勘違いされていることに気付く。
だからこんな全身黒づくめの服着させられたのか…。
今更訳を説明するのも面倒だな、と考えていたら、隣からジッとこちらを見つめる視線が。
「………」
顔を向けると金髪の女で、よくよく見ればやたらと綺麗な顔立ちをした(モデルだから当たり前か)青い目が印象的な女だった。
驚いた顔のまま俺を呆然と見詰める女に、どっかで見たことあるなと思っていると、女の口が僅かに動いて漏れた言葉は耳に心地よい聞き覚えのある声。
「瑠衣…?」
「……」
なんで俺の名前を知ってんだ?
やっぱりどっかで会ったことあんのかと思いながら金髪女を見つめながら記憶を探す。
……やっぱり思い出せねー。
「どっかで会ったことあるか?」
聞いてみると女(確かカメラマンにroseと呼ばれていたっけ)は睫毛を伏せ黙りこんだ。
この緩やかな目の伏せ方…やっぱり知っている。
どこだ?どこで見たんだ。
「二人共ー準備はいいかい?」
もう少しで思い出せそうなところで、タイミング悪くカメラマンから声がかかり、思考が削がれる。
roseは俺に一瞬、苦しげな視線を寄こしたが撮影が始まると真剣な顔へと変わった。
カシャ、カシャ・・・
「違うよ君っ!もっとこう、roseの虜!みたいな顔で!」
カメラマンが細かくだす指示に、もちろん素人の俺が瞬時に応えられるはずがない。
まじ殴りてー。
「大丈夫ですか?」
苛々した気持ちで眉を寄せていると、心配そうにroseが聞いてきた。
俺はそれに頷くことで答え、大きな青い瞳から目を逸らした。
あがる心拍数に、湧き上がる熱を伴う妙な感覚…
これには身に覚えがある。
そうだ、これは……
あぁ、そうか。
こんな風に俺を揺さぶるのは、あいつだけだ。
『瑠衣』
どこかで聞いたはずの、耳を撫でるような優しい声色は…
「……美咲」
初めて、名前で呼んだ。
roseは、いや美咲は、目を見開き瞳を揺らした――。
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