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「…バイト?」
なんでそんなもんしてんだよ。
うちの親父はあれでも会社を何社も経営しているから、暮らしには不自由しないはずだ。
しかも美咲なら言えばいくらでも金をくれるだろう。あの甘やしっぷりから見て。ロリコンめ。
なぜか俺にはケチってあんまくれねーけど。
もしかして真面目そうな美咲のことだから自分のことはなるべく自分で、とか思ってるのか?
けど…
夕食を一人で食えだと?誰が許すかよ。
「辞めろ」
「え?」
「バイト。する必要ねぇだろ」
「あ…でも…」
玄関で靴を履き替えようとしている手をとめて、美咲は困ったように眉を寄せた。
凄い自分勝手なことを言ってる自分に嫌気がさす。
PPPPP・・・
嫌な沈黙が流れる中、それを破るように携帯の着信音が鳴った。
俺は後ろポケットに入れてるためバイブで気付く。だからこれは美咲のものだろう。
美咲はそれに気付くとカバンから携帯を取り出し、俺に「すいません」と断って携帯を耳にあてがった。
「もしもし」
『もぉ〜!!今どこよ〜??』
携帯から洩れてきたやたらとデカい声。
それは野太い声なのにナヨナヨとした喋り方の、どう考えてもオカマの声だった。
誰だよ…!
「すいませんっ今すぐ行きますんで!」
『早くしてちょーだいねっ!』
美咲は慌てたように相手に告げて、すぐに通話を終えた。
そして靴を素早く履き換え俺に向き直ると、ガバッと頭を下げてきた。
「ごめんなさい!バイトのことは帰ったときに話しますんでっ」
そう言うと俺から背を向け、足早に校舎を出て行ってしまった。
「チッ、」
何だか隠し事をされた気分でムシャクシャする。
辞められない理由が何であれ、会話の内容と美咲の行動からして電話の相手が職場の人間であることは確かだろう。
…オカマがいるバイトってどんなバイトだよ。
考えれば考えるほど健全なバイト先だとは思えず、俺はもう一度舌打ちをすると美咲の後を追った。
―――
美咲は電車に乗り二度乗り換えをした末、電車を降りた。
繁華街を通り過ぎ、足が止まった先は普通の雑居ビル。
美咲は辺りを窺い誰もいないことを確認すると、裏口から入って行った。
怪しい。
俺は隣接するビルの影に身を潜めたまま、まるでストーカーのような自分の行動に肩をおとした。
俺は何をやってんだよ…
引き返そうとも思ったがここまで来て、しかも怪しげな雑居ビルに入って行った美咲を無視することもできず、仕方なしに美咲が姿を消したビルへ向かった。
ガチャ・・・
中に入ると辺りは薄暗く、奥からは何人かの話声が聞こえてきた。
美咲がどこにいるかわかんねーけど、取りあえず人がいそうな奥へと進んでいると、ふいに右側のドアが開き若い女が出てきた。
「あれ、あなた…。あ!今日予定していた子ね!?」
「は?」
女は俺の顔を見て一瞬不審そうに眉を顰めたが、なぜか納得したように頷くと「こっちよ!」と言って俺の腕を引いて部屋の中へと連れて行った。
連れられた部屋は前方一面が鏡になっていて、その前には椅子が何脚か置かれていた。
「ここに座って」
女は一つの椅子に俺を無理矢理座らすと黒いボックスを広げた。
その中は、化粧道具のようなものがたくさん詰め込まれている。
「あのさ、俺はただ人を探しに―」
「ちょっと黙ってて」
女になぜか怒られ、部外者よりは関係者に成りすましたほうが美咲を探しやすいか、と考え直した俺は黙って女のされるがままにさした。
「若いっていいわねぇ、お肌がツルツルでっ」
パタパタと柔らかいものを頬に当てられたり髪を触られたりすること数分。
「さ、早くこれ着て!」
女に急かされ、渡された奇抜な衣装に嫌々ながら着替えたあと俺は部屋を出た。
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