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全員肩をビグリと震わし、音の出所辺りに視線を向けます。
僕はみんなに囲まれてるせいで、一体何が起こったのかわかりません。
ただ、不審なことに僕の後ろに視線を向けたみんなは顔面蒼白でガタガタと震えだし、蜘蛛の子を散らすように各々の席に戻り始めて行きました。
やっと視界がクリアになったところで後ろを振りむくと、瑠衣が仁王立ちしていて。
なぜかさっきまであったはずの瑠衣の机が消えていました。
「瑠衣、机どうしたの?」
「……虫を払おうとしたら、手が滑って吹っ飛んだ」
机が吹っ飛んじゃうほど力が入っちゃったってことは、瑠衣ってば見かけによらず虫嫌いなんだな、と思った僕はクスッと笑いました。
その間、廊下にまで飛んで行ってしまった瑠衣の机を「ゴリラ並のバカ力なんだからぁ」と呆れた様子で藍ちゃんが持って来てくれてました。
「瑠衣、それじゃあ今度からは、僕が払ってあげますからいつでも言って下さいねっ」
「あ、あぁ」
柔らかい雰囲気に戻った瑠衣に安心して前を向くと、太一が身を乗り出してきました。
そして僕にしか聞こえない小声で
「今日の魔王様は虫の居所が悪りーのかな?」
「魔王様?誰のことですか?」
何だか僕もつられて小声で聞くと、太一は「あれ、」と指さしました。
その先を辿ると…
「え、藍ちゃん?」
「なわけねーだろ!金城だよ、金城!」
「瑠衣?」
「そう。この学園の奴らは金城のことを裏でそう呼んでるんだ。何てったって県内一最強の族“ブラックスター”の総長だからな!」
ブラックスター?
族って、バイクで暴走して喧嘩とかする集団のことですよね…。
「…それ、何かの間違いじゃありませんか?」
疑わしい内容に首を傾げると、太一は真剣な表情で「マジなんだって!」と言いました。
太一が嘘をついてるとは思っていませんが、だからと言って瑠衣がそんな集団の総長だなんて想像もつきません。
だって瑠衣は照れ屋で不器用ですが、とっても優しい子です。
ましてちっちゃな虫も嫌いな瑠衣が喧嘩だなんて…
「なぁ、さっき金城のこと名前で呼んでだけど、知り合いなわけ?」
「あ、えっと…」
「俺も混ぜて〜」
義兄弟です、なんて言ったらきっと瑠衣が嫌がるだろうしどうしようか考えていたら、僕と太一の間にニョキッと藍ちゃんが現れました。
その瞬間、太一が「ゲッ、」と嫌な声を出し苦虫を噛み潰したような顔をしました。
「俺は今美咲と大事な話してっからあっち行けよウゼェ」
「イヤンッ☆太一ったら冷たいなぁ〜でもそんなとこも愛してるん!」
藍ちゃんは太一にガバッと抱きついて、それに嫌がって「うがぁあああ」と叫びながら押し返す太一を無視して頬を擦り寄せました。
とっても仲がよさそうです。
「やめろっこの変態!!」
藍ちゃんを押しのけ顔を真っ赤にし鼻息荒くいきり立っている太一はポカポカと藍ちゃんの頭を殴り始めました。
藍ちゃんは「太一ったらドS〜☆」と言いながら、何だか嬉しそうです。
「二人はとっても仲がいいんですね」
「なわけあるか!」
「うんっ☆」
あれ、さっきもこんな光景あったような…。
「そう言えば〜さっき話聞いちゃってたんだけどぉ。瑠衣とミチャの関係ってやつ〜」
「お前は地獄耳か。人の話盗み聞きすんなんてタチ悪りーぞ」
「だからぁ、聞こえちゃったんだって〜。そいで、瑠衣から聞いたんだけどぉ〜ミチャとは義兄弟なんだってねぇ」
「マジかよ!!?」
驚きで目を剥いた太一は更に身を乗り出し僕に詰めよりました。
顔がとても近いです。
瑠衣が直接藍ちゃんに話したってことは、別に僕と義兄弟だとバレてもいいってことでしょうか?
それとも、秘密を共有するほど藍ちゃんのことは信頼しているとか…
どっちなのかわからないので取り敢えずコクリと頷き、二人には「内緒にしてくださいねっ」と言っておきました。
「わかった。まぁ隠しておいたほうがいいかもな。金城には敵もたくさんいるし、義兄弟の美咲が標的にされたら厄介だもんな」
「そうそうぉ。俺もそう思ってぇ、万が一のためにチームの奴らにだけは伝えておこっかな〜みたいな☆」
「チームって、さっき太一が言っていたブラックスターのことですか?」
「あぁ、実は…俺も藍も、そのブラックスターの仲間だったりするわけよ。ま、俺の場合成り行きで仕方なくって感じだけな」
「もぉ〜太一ったら〜本当は俺と片時も離れたくなかったからって素直に言えばいいのにぃ〜」
「誰がじゃボケェエエエエ!!」
再びじゃれ合い始めた二人を眺めながら、僕は驚愕の事実にポカンとしていました。
太一と藍ちゃんが…暴走族?
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