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「実は……慣れない部屋のせいか、寝付けなくて」

やっと顔をあげた美咲は、恥ずかしそうにそうはにかんだ。

ドクンッ、と心臓が脈打つ。

やっぱりこいつの笑顔は心臓に悪い。



「好きなだけいればいい」

「本当ですか!?じゃあ準備してきますねっ」

「は?」

何を?と聞く暇もなく、部屋を出てった美咲は枕を手にすぐに戻ってきた。


まさか…



「じゃあ、寝ましょうか」

俺の予感は美咲の邪気のないまっさらな微笑と共にすぐに的中した。

好きなだけいていいって言ったのは、眠くなるまでここにいれば?ってことだったんだが…

嬉しそうに枕を抱える美咲に、今さら言えるはずもなく。


「ベ、ベッド一つしかねーし」

何とか添い寝を回避しようと『寝相が悪い』だの『イビキがうるせーし』だの言ってみる。

しかし美咲から返ってきたのは

「僕、全く気にしませんよ。ベッドの端のほうで寝るんで、瑠衣の邪魔にならないようにしますし」

確かに俺のベッドはダブルだし、美咲くらい小柄な男が一人増えたところで問題はない。


だが…


「ダメですか?」

あまりに俺が険しい顔をしていたせいか、美咲は眉を下げ枕をギュッと抱いたまま項垂れた。


「いや…」

駄目だ。降参だ。


逃げられないと悟り、俺は美咲にベッドを分け与えた。

宣言通り美咲はベッドの端のほうに、変に意識してしまってる俺も端のほうに。

結果的にお互い隅っこに横たわったため、真ん中だけやけに空いてしまった。




「そう言えば瑠衣って、誕生日いつですか?」

寝付けるはずもなく暗がりの中悶々としていると、美咲がふとそんなことを聞いてきた。

「12月12日」

「ハハッ、じゃあ僕のほうが少しお兄さんですね。僕の誕生日、8月ですから。何か変な感じです…」


……嘘だろ。

どう見ても俺のほうが兄貴って感じなのに弟かよ…。
まぁ、学年は同じだしさほど問題でもねーけど。

でもやはりしっこりこねーなぁ。



会話も途切れ、時計の針の音だけがやたらとうるさく感じる中、微かに布の擦れる音がして美咲が身じろいだのだと察した。

妙に緊張して体を強張らせていると



「瑠衣…寒い…」

いつの間にか近くに声が聞こえ、背後に目を遣ると美咲がすぐ側まで来ていて、思わず目を剥いた。

しかも瞼を閉じたまま俺の服を掴んでる。


「………」


暫く驚きで固まっていると、スースーと規則正しい寝息が聞こえてきた。

何だ、寝てたのかよ。
こいつ天然に見せ掛けて実は…とかちょっと思っちまったじゃねーか。


俺はそのまま美咲に背を向ける形で目を閉じた。

美咲に掴まれてる部分だけ、やけに熱を感じながら――。











暖かい温もりの中ふと目が覚め体を起こそうとした瞬間、いつもとは違う違和感にゆっくりと顔を横に向けた。

「…………」

そこには俺に抱き着いた形で、スヤスヤと眠る美咲の姿があって。

そこで漸く、昨日一緒に寝たことを思い出したものの、何でこんなにへばりつかれてるのか、そしてなぜ俺は腕枕なんぞをしているのかという疑問があがる。

しかしそんなことよりも、この状態はさすがに耐えられない。

色々と。


俺は取り敢えず美咲を起こすことに決めた。

安らかな寝顔で眠る美咲を起こすのは何だか忍びないが。


「おい、」

ユサユサと軽く揺すると、一瞬眉をしかめたあと美咲は目を開けた。

そして寝ぼけ眼で俺に気付くと、ふにゃりと笑った。


「瑠衣ーおはようございますぅ」

「お、はよ…」


カーテンから射し込む日差しの元だと凶器(笑顔)の威力は半端ないことを知った――。





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あきゅろす。
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