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「瑠衣はお料理したりしないんですか?」

「しない」


沈黙が苦しくて、取り敢えず話題をふると返事は素っ気ないもの。

どうしよう…また沈黙になっちゃいました。



「えっと…じゃあ、やってみませんか?」

チラッと横目で窺うように言うと、瑠衣はすぐに僕の隣まできて「何をすればいい」と聞いてきました。

どうやら手伝ってくれるみたいです。


「玉ねぎをみじん切りにしてくれますか?」

「みじん切り?なんだそれ」

「こうやって、まず線を入れて、最後にこうやって細かく切っていくんですよ」

「…こうか?」


料理初心者の瑠衣は包丁を持つ手も危なっかしくて、僕はハラハラしながら見つめていました。









瑠衣と共同作業で作ったハンバーグが焼き上がり、デミグラスソースをかけ付け合わせにポテトサラダを横に添えて、今日の夕ごはんは完成です。

「よし、できたっ」


と、そこへ玄関から達也さんの「ただいまー」と言う声が聞こえてきたので僕は急いで玄関へ向かいました。



「お帰りなさいっ!お疲れ様でした」

出迎えた僕に達也さんは一瞬ポカンとした顔をしましたが、すぐに満面の笑みで僕を優しく抱き締めました。


「ただいま、美咲くん」


あぁ、これがお父さんというものなんでしょうか…



実父はまだ僕が小さい頃に病で亡くなってしまったため、殆ど記憶になくて――父の温もりというものを知らない僕にとって、達也さんの腕の中はとっても温かく感じました。

「達也さん、ご飯にします?それとも先にお風呂に入りますか?」

「ご飯にしようかな。―何だか美咲くん、僕のお嫁さんみたいだね」

「あはは、お嫁さんは僕じゃなくて母さんですよ?」

「もちろんそうだけど、お嫁さんを二人もらった気分だよ」

そんな達也さんの冗談に声をあげて笑っていると、後ろから低ーい声がかかりました。


「何やってんだ変態親父」

それは、壁に凭れジト目で僕らを見詰める瑠衣でした。


「何って、見ればわかるだろう?親子の抱擁じゃないか」

達也さんがニッコリ顔でそう言うと、瑠衣はますます眉間に皺を寄せて恐ろしいほど怖い顔に…。


「あ、ご飯食べましょ?全員揃ったことですし!」

よくわからない不穏な空気が流れ始めてきたので、僕は場を和まそうと話題を切り替えました。

「うん、そうだね」

「………」



何とかその場を切り抜け、リビングへと戻りました。


けれど瑠衣はまだ苦々しい顔のままで、僕には何が原因で不機嫌になってしまったのかわかりませんでした。

一緒に料理をしていた時は、無表情ながら機嫌が良さそうに見えたのに…






料理を並べ、三人が食卓に着いたところで初めての団らんが始まりました。


「部屋は片付いたのかい?」

「はい、瑠衣も手伝ってくれたので凄い捗りました」

「それは良かったねぇ。こんなデカいだけのバカならいつだって使って構わないからね。――あ〜それにしても美咲くんの料理は美味しいなぁ」

「お口に合って良かったです」

「美咲くんの美味しい料理が食べれるなら、毎日仕事を早めに切り上げて帰って来るよ〜」

「そんな〜褒めすぎですよ。ただの家庭料理ですし」

楽しい団らん、と言いたいところですが約一名全く会話に入らず黙々と食べ続けています。

僕は気になって瑠衣に話しかけてみました。

「味、どうですか?」

瑠衣は少しだけ目線をあげると

「うまい」

「ほんとですか?良かったぁ。あ、明日のお弁当ですが何か入れて欲しいものがあったら言って下さいねっ」

瑠衣はコクリと頷き、僕から視線を外すとまた黙々と食べ始めました。


「美咲くん、お弁当まで作ってくれるのかい?別にこんな奴のためにそこまでしなくていいんだよ?」

こんな奴、と指をさされた瑠衣は眉をしかめました。

「僕料理好きなんで、全然平気です」

「美咲くんがこんないい子で僕はとっても嬉しいよ!こっちのノッポとは大違い」

最後のほうはボソッと言った達也さんは、優しげな笑みを浮かべ僕の頭を撫でました。


「そんなことないですよ。瑠衣、片付けも料理も手伝ってくれましたし。僕、今まで家で一人でいることが多かったので…か、家族が増えて嬉しいです!」

「「………」」

何だか恥ずかしくて、思わず俯いてしまいました。



なかなか返事が返ってこないことに不安になって、少し視線をあげた瞬間、ものすごい勢いで達也さんに抱き締められました。

「んもー、可愛すぎるっ!」

座ったままの姿勢だと少し苦しいのだけれど、達也さんを突き放すことも出来ず苦笑いしていると――ガタッと音をたて立ち上がった瑠衣に引き剥がされました。

そしてそのまま無言で席に戻る瑠衣。


「瑠衣?」

「いやだねー男の嫉妬って」

「うるせー変態」

苛々とした様子で達也さんに返す瑠衣は、ご飯を掻き込むと「ごっそさん」と言ってすぐさま部屋へ戻ってしまいました。




「瑠衣どうしたんですかね?なんか怒ってたみたい…」

「大丈夫、いつもあんなんだから」

いつも、あんな感じ…?
でもスーパーで買い物してる時とか、一緒に料理してる時は、楽しそうにしていた気もするけど…僕の気のせいでしょうか。


「そう言えば美咲くん、お仕事のことなんだけど」

「へ?」

「あ、“あのバイト”のことだよ。僕は弘美から聞いたんだけど、まさか君が『rose-ローズ-』だとは――」
「ワァーー!!恥ずかしいから言わないでくださいっ」



僕がもつ、大きな秘密。

僕の、もう一つの顔――。





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あきゅろす。
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