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「そう言えば、」

黙って作業をしていた美咲が思い出したように口を開く。


「明日から僕も瑠衣と同じ学校に通うことになったのでよろしくお願いしますねっ」

コテンと小首を傾げる姿が可愛くて、また再上昇していく体温を静めるため俺は顔を背けた。


こいつの笑顔は凶器か。



………て、今何て?


「同じ…学校?」

「はい。前の学校はここからだと通学は大変だから、いっそのこと転校することに――」

俺は勢いよく立ち上がった。美咲はそんな俺の行動に目を瞬かせる。


あんな、あんなとこ(学校)に美咲を!?
最悪な予感が頭を占領する。



「…どうか、したんですか?」

突っ立ったままの俺に、心配そうに眉を下げる美咲。

困った顔もいいな、と思考が一瞬逸れる。

あー、今はそれどころじゃねー!!

あんなホモの巣窟に美咲が行ったら即効で狙われんじゃねーかよ!



俺が通う“星都学園”は半寮制の男子校。
幼稚舎からのエスカレーター式で、小さい頃から寮生活をしている半数の中には、同性を恋愛対象とする者も多くいて、そんな奴らの影響で通学組にも染まっていく奴らも少なくない。


めんどくせーことになった、と無意識に舌打ちを鳴らした。


「やめとけ。あんなとこ、ろくなことになんねーぞ」

てか確実に危険だ。

そんな俺の不安など知る由もない美咲は、更に眉を下げた。

「僕がいたら…迷惑ですか?」

「はっ?」


何勘違いしてんだよ。

長い睫毛を伏せ、徐々に青ざめていく美咲の顔色を見て俺は焦った。


「ち、違げーって!迷惑とかじゃなく、俺はただ…」

何て説明したらいいんだ!
いきなり『ホモ学だからだよ!』なんて言えば驚かせちまうだろうし…

俺が言い淀んでいると、美咲はバッと顔を上げ、真剣な眼差しを向けてきた。

「わかりました。それじゃ僕、学園内では瑠衣と他人のフリをします。苗字も結城のままなら、僕と瑠衣が兄弟ってこと誰にもバレないと思いますし!」

「…………」

どうしてそんな考えにいきついたんだ?

俺が何も言わないせいで勝手に解釈しちまったらしい。

取り敢えず誤解は解いとかないとな。

「別にいい」

「え?」

「お前と学校が同じでもいいっつってんの」

何か色々と面倒になってきた俺はそれだけ伝えた。

美咲はホッとしたように胸を撫で下ろし「良かったです」と微笑んだ。

まぁ、学園での対処はその時になったら考えるか。



「あ、もうこんな時間!お夕飯の用意をしなくちゃいけませんね」


片付けもひと段落ついた頃、時計を確認した美咲が、慌てたように声をあげた。


「めし?」

「はい。母さんに、金城家は男所帯だからあなたが家事をしてあげなさいねって言われてるんです。―あ、でも僕家事好きだし、全然嫌ではないんですけどね!」

お前だって男だろ、という言葉は飲み込んだ。

そういや、俺が三歳の時に母親が死んでから今まで親父と二人、お互い不器用だし家事なんて全くしたことがなかったな。
掃除は定期的に来るハウスキーパーがやってくれるし、食事は殆ど外食で済ましていたし。


だがこれからは…


「お前、料理できんのか?」

「はい、普通の家庭料理程度ですけどね。近くにスーパーとかありますか?僕まだこの辺の地理には詳しくないから…」

「ある。連れてってやる」

「え!教えてくれれば僕一人で――」

俺は美咲の言葉を無視して、自室へ上着を取りに向かった。





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