16
「………」
蓋を開けて、まず始めに中身を確認した九音は軽い目眩を感じた。
一体遊二は何のためにコレを自分に…?
やはり頭がイカれたとしか思えない。
九音は箱からそれを恐る恐る取り出した。
可愛らしいクマが描かれた、筆箱を――。
目の前に出された物を見て、遊二は目を見開いた。
今すぐにでも、これは自分が選んだんじゃないと叫びたい。
もっとまともな物、アクセサリーなどの類であれば我慢出来たかも知れない。
だが、実際九音が手にしているのは実にファンシーな代物だ。
「そうかそうか。遊二、あれだろ。九音が勉強好きだからって文房具にしたんだろ。しかも今ちまたで大人気のキャラ“クマのブーくん”を選ぶあたり、遊二センスいいな」
至極真面目そうに自分の解釈を述べているように聞こえるが、このプレゼントを選んだ張本人は空なのだから、つまりは自画自賛なわけだ。
九音のことを考えたプレゼントにしては、実にお粗末である。
「そうなのか、遊二」
「んなわけ――」
否定の言葉を発しようとした遊二だったが、嫌な視線を感じ口をつぐんだ。
(んだよその目は…!クソッ)
遊二に生ぬるーい視線(顔は半笑い)を送る空と十夜。
『え、言っちゃうの?』
『約束したのになぁ』
『遊二って実はヘタレだったんだな』
『約束一つ守れないのはどうかと思うー』
遊二にはこんな風に二人の心の声が聞こえた。
「べ、別にいいだろ。何だって!」
男のプライドとして遊二は約束を突き通した。
「まぁ、そうだが。俺はこれをお前が店でレジに出している姿を是非見たかったな」
そうからかい混じりに言う九音に、遊二は山ほどある弁解の言葉を飲み込み舌打ちを盛大に鳴らした。
「やっぱ、兄弟っていいもんだな。」
感慨深げに目を細める空に、九音はつい緩んでいた頬を引き締めいつもの仏頂面に戻すとファンシー筆箱をまた箱の中に納めた。
「仕方ないからこれは貰っておいてやる。お前たちはもう帰れ」
「「…………」」
未だにこれを誘拐事件だと思っている九音に、全員が戸惑った。
ネタバレのタイミングを決めていなかっただけに、十夜は指示を求めるよう空に目配せを送った。
このまま実は「ドッキリでした〜」なんて言ったら九音は鬼のように怒り狂うだろう。
何しろプライドの高い男だ。まんまと騙されたと知ればあとが怖い。
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