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これのどこがちょっとなんだ!と空は叫びたくなったが口を開けば舌を噛みそうなのでグッと唇を閉じた。
砂埃を撒き散らせながらグングンと進んで行くピンクのママチャリに、空は振り落とされないよう必死に周の腰にしがみつく。
「フフフ…」と不気味な笑い声を発っしながら競輪選手並みに立ち漕ぎする周陽子(推定25才)に恐ろしいものを感じ取った空は背筋がゾッとした。
「さぁ、着きましたよ。どうしました?具合が悪そうですけど…」
大和撫子風の美人に顔を覗かれ、健全な男子であれば顔を赤く染めるところではあるが暴走自転車に酔ってしまった空はそれどころではない。
グルグルと回る視界にこめかみを押さえながらフラフラと自転車から降りる。
「大丈夫ですか?」
空の様子を心配そうに窺い見ている周は、自分のせいでこんな状態になってるとは全く気付いていない。
「だ、大丈夫です…」
何とか声を絞りだし空がそう伝えると、周は安堵の息をもらした。
空は一瞬にして周を危険人物として認定し、ふと目に飛び込んできたファンシーなピンクのママチャリの側面に貼られた『阿魔音(アマネ)号』の文字にビクリとしながらもこっそりとポケットから掌サイズのノートを取り出すと“二重人格ぽい人ランキング一位『周陽子』”と書きこんだ。
「良かったぁ。では、中へどうぞ」
空は細かな装飾が施された白い扉を開けた周のあとに続いた。
(城みてぇ…)
内装は外観を裏切らない豪華な造りだった。
例えるなら、中世ヨーロッパの王宮のよう。
天井にはきらびやかなシャンデリア、中央には大きな螺旋階段があり壁には値打ちそうな絵画が掲げられている。
貧乏暮らし一直線であった空は軽く放心した。
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