10
「あ、遊二気付いたー?」
積み重ねられた段ボールの上で寝転がりながら漫画を読んでいた十夜を発見した遊二は目を細めた。
「何だこれは」
当然の疑問だ。
一つ一つ質問するのも面倒臭いと思った遊二は、全て説明しやがれという意味でそう十夜に訊いた。
「んー。遊二は、俺と空っちに誘拐されたんだよー」
十夜はいつものヘラヘラとした顔でそう遊二の疑問に答えた。
「誘拐?何言ってやがる。取り敢えず拘束を解きやがれ」
「嫌だよ。だって遊二、自由になった瞬間確実に俺のこと殴るっしょー?」
「当たり前だろが!訳わかんねぇテメェらの遊びに付き合わされてす巻きにされてんだぞ!」
遊二は怒鳴りながら、精一杯動いてみるが、とても元気な芋虫にしか見えない。
十夜は遊二が動けないのをいい事に「面白れー」と指さして笑った。
「テメェ、ぜってぇぶっ飛ばす!」
更に怒った遊二は鍛え上げられた強靭な肉体を最大限に使い、勢いをつけて立ち上がった。
それに驚いた十夜はいつでも逃げられる体制に入る。
だが、手足を拘束されたままなので跳び跳ねながら一歩ずつしか進めない遊二に反撃する術は何も有りはしない。
「……」
それに遊二自身も気付き、ピタリと動きを止めす巻き状態で直立不動となった間抜けな兄の姿に、さすがに可哀想だと思った十夜は「まぁまぁ」と遊二を宥めた。
「ちゃんと説明するから落ち着きなってー」
「こんな状態で落ち着けるか!」
「それにもちゃんと理由があるんだよー」
「理由?どんな理由があるってんだよ」
「実はこの計画、空っちが九音と遊二を仲直りさせたくて考えたものなんだ」
「クソ使用人が…?」
余計なことを、と遊二は舌打ちをこぼした。
大体、自分と九音の仲がどうだろうとあいつには関係ないはず。
(一体何のメリットがあんだよ…)
戸惑いを見せる遊二に、十夜は小さく息を吐くと静かに口を開いた。
「空っち言ってた。兄弟なのに喧嘩したままなんて勿体ないって」
「勿体ない?」
「うん。空っち一人っ子だから兄弟にすごい憧れてたらしくてさー。だから二人が仲悪いままなのを、黙って見ていられなかったんじゃないかな」
「……とんだお節介野郎だな」
「でもさ俺、空っちは遊二が思ってるより、すんごいイイコだと思うよー?」
「……」
十夜が、性の対象としてではなく人間性を気に入ることは非常に少ない。
愛想はいいため知り合いは多いのだが、実のところ親しい友人と呼べる者は一人もいなかった。
それを知っている遊二は眉を潜める。
自分の弟が初めて心を許した人物…
(ただのムカつく野郎とばかり思っていたが、やはりあいつには人を惹き付ける何かがあるのかも知れない…)
険しい顔つきでそんなことを考えている遊二だが、直立不動のす巻き状態ではコントにしか見えない。
「……十夜、俺がここに連れて来られたのはなんでだ。誘拐とか言ってたな」
「あぁ。誘拐に見せ掛けて、遊二の身代わりに九音が来るか試すんだよ」
「身代わり?あいつが俺のために来るわけねぇだろ」
「それはどうかなー」
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