8
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―――遡ること六時間前。
家の明かりも消えた真夜中、二つの影が鴉間家離れの廊下で蠢いていた。
「空っちー。本当にやるの?」
「俺は一度やると決めたら必ずやる男だ」
「うわ、何でいきなり男前発言。でもさぁ…」
コソコソと話し合う怪しげな二人。
空と十夜である。
空はどこで用意したのか全身黒タイツに身を包み、闇と同化している。
実に気持ちの悪い格好だが、十夜はそれを背後で見ながら舐めるような目で空を視姦していた。
(空っちのお尻ってかなりいい形してるなぁ)
ついつい不埒な手が空のお尻へと伸びる。
「ひゃわっ」
ペロンとお尻を撫であげられた空は思わず変な声が口からもれた。
咄嗟に手で口を塞ぎ、ギロリと横目で睨むとヘラリとした顔で「ごめん我慢出来なかった〜」と十夜は手を合わせた。
「ふざけんな。野郎のケツ触って何の意味があんだよ」
「そりゃあ、性的な意味があるってことじゃな〜い?」
「やめろ。俺のケツがいかに素晴らしいフォルムを描いていたとしても、やめろ」
「はーい。でもさ――」
「シッ!」
とある一室の前で立ち止まると、空は人差し指を立て十夜に口を噤むように指示を出した。
緩い雰囲気が一変して緊張感に包まれる。
空はノブに手をかけそっとドアを開けると、物音を立てずに体を滑り込ませた。
部屋には明かりが灯されていなかったが、ここに来るまでに暗闇に目を慣らしておいた空は、ベットに横たわる人物をロックオンした。
ターゲットは空たちの侵入には気付いておらず、規則正しい寝息を立てている。
それを確認した空は、十夜に目配せを送る。
十夜はそれに一度頷くと、肩にかけていたロープを手に持ち替えた。
空は脇に抱えていた小瓶を取り出すと、蓋を外し中の液体を布にしみこませにかかる。
薬液特有の、鼻にツンとくる匂いが漂う。
準備は万端だ。
二人はアイコンタクトをしてタイミングを計ると、同時にターゲットに飛びかかった。
「っ!」
突然襲いかかってきた顔も見えぬ二人に、さすがに目を覚ましたターゲットは必死に抵抗をみせた。
「んだテメェら!」
暴れ狂うターゲット、遊二に蹴り飛ばされそうになりながらも空は布で口を塞ぎ、十夜はロープで胴体から両足までをグルグル巻きにした。
徐々に抵抗力を失っていく遊二の体。どうやら薬が効き始めてきたようだ。
遂にはパタリと動かなくなった遊二に、黒タイツは額の汗を拭いフゥ、と息をついた。
「あー、危ねぇ。危うく噛みつかれるとこだったぜ。こいつ犬かよ」
「空っち、もし遊二にバレたら後でかなりヤバいと思うんだけど〜」
「そん時はそん時だ。取り敢えず早いとこコイツ運びだすぞ」
「はいはーい」
これが、誘拐事件発生の瞬間だった。
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