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鴉間家はその財力ゆえ、その権力を利用しようと手荒な真似で近付いてくる輩も多い。
その為、鴉間に生まれた人間は幼少の頃から身を守るために様々な武術を仕込まれるのだ。
「大変だな、お前も」
「俺はそうでもないよ。九音は一度誘拐されてるけど」
「ふゅかひ(誘拐)!?」
どこか現実離れしたフレーズに、アイスクリームを口いっぱいに頬張っていた空は目を丸くした。
口端からはチョコレートやらアイスやらが今にも滴りそうだ。
汚 な ら し い。
横でそれを見ていた三貴は堪らずにナプキンを空の首元に掛けてやった。
赤ちゃんの涎かけか。
「そう、小四の頃かなぁ。学校帰りに車に連れ込まれて、身代金請求されてぇ…」
「で、どうなったんだ?」
「犯人達の隙をついて逃げてきたんだよ。皆大慌てだったのに本人は平然した顔でさ、アジトの場所と犯人達の人相を警察に伝えたあとは、いつも通り勉強してたよ。」
「うわぁ…」
普通の子供にとったらトラウマになりそうな恐怖体験なのに、その直後に平然と勉強していただなんて、九音は昔から冷めた人間だったらしい。
だがなぜか空はその光景が容易に想像がついた。
「九音て昔からああだったんだな」
「うん。まぁ、あの性格になっちゃったのは九音なりの防衛本能だったんじゃないかなって俺は思うんだけどね」
「防衛本能?」
「そう。鴉間家の次期跡取りとしての計り知れないプレッシャーに遊びたい盛りの子供が耐えるには、表面上、大人のフリをするしかなかったんじゃないのかな。まぁ、本当のところは本人にしかわからないことだけどねぇ」
「……」
飄々とした態度をしながらも、十夜の言葉には九音に対しての気遣いが窺えた。
性格もバラバラで、纏まりもあったもんじゃないし、どこか他人行儀なほどお互い無関心な鴉間ブラザーズ。だけど…
(やっぱり、兄弟だな)
空は見えない絆を感じた。
きっと、十夜に限ったことではないはず。
遊二と九音の間にも…
だけど口で言ってきくような相手ではない。
どうすれば和解してくれるだろうか、と空は首を捻る。
(自称)平和主義者としては、黙っていることは出来なかった。
九音と遊二、仲直り大作戦(ハート)だ。
「……フフッ」
空は自分の思い付いた企みに忍び笑いを洩らした。
横でそれを目撃してしまった三貴は、嫌な予感に背筋をブルリと震わせる。
「どうしたの空っち〜?何か嬉しそうだねぇ」
「な・い・しょ」
人差し指を立てて無駄に可愛こぶって言った空は気持ち悪かったが、突っ込み担当(九音or遊二)がいないため触れる者はいない。
だけども三貴は険しい顔つきで『何も起こりませんように!』と心の中で祈った。
一番の平和主義者は、この最年少の美少年かも知れない。
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