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空は嬉々とした顔で、欲張りを超越したようなパフェにスプーンを差し入れた。
あれだけ殺伐としていた雰囲気が、空の登場で今では嘘のように和んでいる。
空の口の周りにチョコレートシロップがベッタリと付着する様を見て、誰もが汚いと思う反面、どういう訳か心が癒された。
そう、まるで出来の悪いペットを見ているような感覚だ。
だらしないなぁ、と思わず口を拭ってやりたくなる。
駄目だ、騙されるな。
こいつはただのアホな使用人に過ぎない。
そう九音はかぶりを振ると、パフェには手をつけずにリビングから姿を消した。
暫くすると、パフェを一口だけ食べた遊二もいなくなった。
リビングには三人だけが残る。
十夜はそれを見計らったかのように口を開いた。
「空っちって度胸あるよねぇ。あの兄貴たちに拳骨しちゃうなんてさ」
「そうかぁ?でもな、俺は基本的に暴力は嫌いだ。平和主義者だからな」
実の親にはほぼ日常的に拳を奮っていたのはどこのどいつだ。
勿論正当な理由があってこそだが。
相手が相手なだけに。
「のわりに今日、遊二にヤキ入れに来た黒高の連中に突っ込んで行ったじゃん」
「…俺は鬼ゴッコだと思ったのに騙されたんだよ」
空は、もう少しで流血寸前だったことを思い出し、不満げに口を尖らす。
十夜は空が何を思って鬼ゴッコだと思ったのかわからなかったが、あの惨状の中無傷だった空に感銘を受けていた。
あの、黒高随一危険な男と言われる片桐と、対等(のよう)に対峙しているところしか見ていなかった十夜は、空も自分と同じく武道か何かを身に付けているのかも知れないと間違った見解をしていた。
「空っちって、普通なフリして実は最強ー?」
「自慢じゃねぇが、俺は最弱だ」
「ハハッ、嘘ばっか〜」
今のところ一番空のアホさ加減を理解している三貴は、二人の会話をぼんやりとと聞きながら、また空が突拍子もない言動で難を逃れたに違いないと密かに思った。
正しい判断だ。
「嘘じゃねぇけど。十夜だってチャラいフリしてなんだよ、あの忍者みてぇな動き」
「チャラいのはフリじゃなくてマジでだよー。俺は鴉間ってだけで危なーい人に狙われることも多いからさ、昔から護身術習わされてるわけよ」
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