3
九音は屈辱感に顔を歪ませ、あまりの悔しさに歯をぎりりとくいしばる。
幼い頃から、自分は完璧だった。
鴉間家の次期当主という周りからの期待を一身に受けながらも、プレッシャーに押し潰されることなく、期待以上の成績を残してきた。
誰にも負けない自信はあったし、上に立つ者の素質が自分にはあると信じてきた。
なのに今の自分はどうだ。
いきなりやって来た謎の使用人に頭は殴られるは説教されるは、二度の痛手を負わされぐうの音も出ない。
言い返す言葉が、見つからない。
いつもなら食ってかかって力で捩じ伏せる遊二だって、今は沈黙を貫いている。
(……使用人には何かがある。俺には足りない、何かが)
チョコパフェを見つめながら九音が複雑な思いに駆られていると、か細い声が沈黙を破った。
「…や、やめて」
今までオドオドと不安そうに見つめていた三貴だ。
三貴は遊二の目の前に鎮座する美味しそうなパフェに半分気を取られていたが、チクリとした痛みに弾かれたように立ち上がった。
「九音にぃも遊二にぃも、喧嘩はもうやめて…!」
か細い声は変わらないが、その瞳には確かな強さが宿っていた。
引っ込み思案な弟が初めて自分に意見したことに、遊二は戸惑った。
九音も顔をあげ三貴を見据える。
「ぼ、僕は…みんなと仲良くしたい。家族だもん…」
「「……」」
二人は黙って三貴の言葉に耳を傾けた。
「僕、知ってるよ?昔は二人が仲良かったってこと…だから、元に戻ってほしい…」
瞳を潤ませ真剣に訴える三貴。
だが、三貴はふと気付いた。
隣に座っていた問題児の姿がないことに。
元はといえばこんなややこしい状況になったのは彼のせいなのに。
基本的に九音と遊二の言い争いは一言二言嫌味を交わすとどちらかが身を引いていくため、放っておけば大事(オオゴト)にはならない。
そこへ割って入って二人に拳骨をかました空は状況を悪化させたに過ぎないのだ。
(……しかも僕に押し付けるし)
そう、三貴が立ち上がって意見しなくてはならなくなったのは、隣に座っていた空にお尻をつねられ無理矢理立たされたからだった。
きっと、鋭い目つきで『何か言え』と自分に目配せしたあとに消えたのであろう。
息苦しいほどの沈黙に三貴が泣きそうになっていると、
「十夜と三貴の分も持ってきたぞー」
探していた人物が、今度は手に三つパフェを乗せてやって来た。
空は三貴の前に一つ、十夜の前に一つ置くと、自分の分を手に席に戻った。
だが、何かがおかしい。
「ねぇねぇ空っちー。なんか、空っちのパフェだけやけにデカくなーい?」
誰もが気付いたことをいち早く指摘したのは十夜だった。
無難な大きさにまとまる他のパフェと比べ、空のパフェだけ、顔の高さにまでアイスが重なっている。
食いしん坊もここまでくると意地汚い。
「き、気のせいだっつーの!」
明らかに動揺を見せる空。まさか気付かれないとでも思ったのだろうか。
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