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「………肉がねぇ」

鴉間家の離れへと帰って来た空は、早速夕飯の支度に取りかかった。
しかし、冷蔵庫を開けてみると、そこには今日のメインとなるハンバーグに使う大事な大事なお肉がなかったのである。


(……チッ、わかってれば帰って来る時スーパー寄ったのによ)

空は冷蔵庫を開けたまま、冷気を目一杯顔に浴びながら考えた。

今からスーパーへ買い出しへ行くのは面倒臭い。
それに既に頭ん中はハンバーグモードになってしまっている。

今日はハンバーグをこねないと安眠出来ないだろう。


(十夜も遊二も九音も、今日はハンバーグじゃねぇと嫌だって言ってたしなぁ…)


それはお前の妄想だ。

彼らは一言も、ハンバーグに関して賛同の言葉は言っていない。


顎に手を添え暫く唸っていると、ふと、ある物が空の目に止まった。


お豆腐だ。


「…これでいっか」

どこかで肉と食感が似ていると聞いたことがあった空は、豆腐を肉の代わりに使うことにした。





コネ、コネ、コネ

肉とは若干感触は違うが、空は手のひらで存分にこねくりまくった。
指に絡み付くネチョネチョ感に、空は堪らず恍惚とした表情を浮かべる。


ボールの中をしきりに揉みながら顔を赤らめニヤニヤとしているド変人の空を、たまたまソフトクリームを取りに来てしまった為に見てしまった三貴は無言で固まった。

「……」

一体あのボールの中身は何なのか。
興味はあるけど見るのは怖い。空に声をかけるのはもっと怖い。


結局、三貴はそっと冷凍庫からソフトクリームを取り出すと、空に気づかれないよう忍び足でキッチンから出て行ったのだった。








何とか今日も兄弟全員を席につかせた空だったが、


「……変な味がする」

豆腐ハンバーグを食べた十夜がボソリともらした言葉に、全員が端を止めた。


「俺も思ったが…これはおかしい」

十夜に続き、九音もハンバーグの味に眉を潜め指摘する。

空は内心舌打ちをした。

こいつらは無駄に舌が肥えたブルジョワなだけに、やはり味にはうるさいようだ。




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