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九音は溜息を吐き出すと完全に箸を置いた。

「使用人、料理くらいまともに作れんのか」

「な――」
「うるせぇ」

空が言い返すより先に口を開いたのは、一人黙々と豆腐ハンバーグを食べていた遊二だった。

和やかな食卓とは言い難い空気が流れる。


「何か言ったか?」

「聞こえなかったのかよ。うるせぇって言ったんだ。飯ごときにゴチャゴチャ言ってんじゃねぇよ」

「遊二、お前はなぜ俺に一々突っ掛かってくるんだ」

「フンッ、自惚れんな。テメェがいつもいつも俺に突っ掛かってくんだろぉが」


睨みあう九音と遊二。

お互い憎しみのこもった瞳をぶつける二人に、空は隣で二人の兄の様子を不安な面持ちで見詰める三貴の頭を撫でてやった。

そして、ゆっくりと立ち上がるとツカツカと九音の背後に立ち


ゴッツーン・・
「つ、」

思いっきり拳骨をくらわしたのだった。

突然の痛みに頭を押さえてテーブルに突っ伏す九音に誰もが呆然としている中、空はまたツカツカと歩きだし、今度は遊二の横に立つ。

九音の様子に気をとられていた遊二は反応に遅れをとってしまった。


ゴッツーン・・・
「ブフッ、」

後頭部を叩かれテーブルに顔面を強打という黒豹らしからぬ間抜けなやられ具合に、遊二自身、自分の身に起きた事態を理解するのに暫く時間がかかった。




「何をするんだ貴様!」
「クソ使用人!テメェぶっ殺す!!」


復活した九音と遊二はほぼ同時に空に詰め寄った。

空はそんな二人を一瞥すると怒り心頭の鬼たちをそのままに、踵を返しどこかへ行ってしまった。


「「………」」


ここにおちゃらけた人間が一人でもいればコントのようにズッコケて空に突っ込みを入れているところだが、残念ながら鬼二人が醸し出すオーラに太刀打ちできる様なチャレンジャーはいない。

何とも言えない重苦しい沈黙が暫く流れたが、思いの外空はすぐに戻って来た。

手にお皿を二つ乗せて。

それを一つずつ九音と遊二の目の前に置くと、空は自分の席に戻り静かに口を開いた。

「さぁ、存分に糖分をとりやがれ」

空はそれだけ言うと、また豆腐ハンバーグをガツガツと汚ならしい行儀もへったくれもない食べ方で食べ始める。

九音と遊二は自分の目の前に置かれた、皿の上に乗る美味しそうな“パフェ”を見て黙り込む。


二人を糖分が足りないせいで苛々しているもんだと勘違いしている空は、甘い物を食べて落ち着け、そういう意味合いを込めて食後のデザートとして用意していたパフェを出したのだった。


ついつられてパフェに手を出そうとしていた遊二は、はたと気付きスプーンを乱暴に叩き置くと、勢い良く立ち上がり口の周りにベッタリとデミグラスソースを付けているアホを睨みつけた。

「ふざけんなっ!どういうつもりだクソ使用人!」

今にも殴りかかってきそうな遊二に、空は緩慢な動作でナプキンで口を拭うと、


「小せぇ弟の前で、デケェ兄貴が喧嘩なんかしてんじゃねぇよ。テメェこそどういうつもりだ」

「……」

黒い双眸が、真っ直ぐと遊二を見据えた。




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