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「……なんだあいつら」
「まぁ、仲いい兄弟もいれば、その逆もいるってことだよねぇ」

空の肩に凭れながら他人事のようにぼやく十夜は激しい乱闘の後とは思えないほど、汗一つかいていない涼しい顔でニンマリと笑った。

九音と遊二の間にある確執。

それは今に始まったことではない。
顔を合わせば喧嘩ばかりの二人を見慣れてしまってる十夜は、止めるでも仲裁に入るわけでもなく傍観に徹してきた。

それは、同じ兄弟であっても二人の問題に自分が首を突っ込んだところで解決することではないとわかっていたからだ。



「勿体ねぇな」

そうこぼした空に、十夜は「何が?」と首を傾げた。

「俺、一人っ子だからさ…ずっと兄弟いる家庭に憧れてたんだよ。家にいても遊んでくれたり、話し相手がいるって、最高じゃねぇか。だから、勿体ねぇよ…」

「……」

空の言葉はなぜか十夜の胸に深く響いた。

勿体ない、確かにそうかも知れない。
友達、仲間ならいくらだって作れる。
けれど家族は違う。
互いが唯一の存在なのに…いがみ合い続けなくてはいけないほどの理由なのだろうか…。

早く、それに付いてほしい。

「…どっちも、強情っぱりなんだよねぇ」

だから、引くに引けなくなってしまったのかも知れない。

だけど、もし昔のように戻れるなら…



「何となくわかる。だけどよ、兄弟っていうのは見えない絆で結ばれてる。だから…大丈夫だ」

だろ?と口角を上げた空に、十夜は背を向けて「そうだね」と素っ気なく返す。

なんだか、泣きそうになった。

今顔を見られたらはぐらかせそうにない、と十夜の口からは自嘲気味な笑いがもれた。

(……不意討ちすぎるよ空っち)

アホで態度デカくて、なのに使用人で…

十夜は空という存在がわからなくなった。

だけど、今胸に広がる温かい感情。これは確かに空が与えてくれたものだ。


十夜はいつものヘラヘラとした顔に戻すと振り返る。


「空っち、家に帰ろっか!」

「あぁ。夕飯の支度もあるしな」

「……空」

帰ろうとした空を蓮城が低い声で呼び止める。
体はデカいのに寡黙なため存在を少々忘れがちだった空は

「あ、忘れてた」

正直に口にだしてしまう。

が、蓮城はそんな空に嫌な顔をするわけでもなく、唇をわななかせながら言った。

「…鴉間と、一緒に…住んでるの?」

一部始終の会話からそう解釈した蓮城は、絶望感の滲む瞳で空を見つめる。



「あぁ。使用人としてだけど」

「……」


空に対して憧れ、いや崇拝といっても言いぐらいの気持ちを持っている蓮城は突き付けられた事実に目を見開いた。

というのも、聞きたくなくても勝手に耳から入ってきていた十夜の噂は、どれも酷いものだったからだ。

一言でまとめるなら、下半身人間。

そんな年中発情期みたいな奴と一つ屋根の下に暮らしていたら、空の清い清い身(?)がどうなってしまうかなんて明らかだ。

飢えたライオンの檻に放りこまれた生肉と同じ。

しかし自分のような人間が空の私生活に干渉的なことを言うのはどうだろう。
馴れ馴れしい気がする。



そう思った蓮城は、十夜を引っ張り寄せて空に聞こえないよう声を落とし牽制を計った。


「……空に、手を、出すな」

蓮城の黒い噂を信じきっている和光の生徒ならば、縮みあがって夢中で頷くだろう。
だが、下半身の赴くままに生きてきた十夜は残念なことに恐怖という観念が薄い。

「んー、でも空っちって結構感度良さそうなんだよねぇ。一回くらい味見――わかったよぉ、何もしないからそんな睨むなってぇ」

みるみるうちに顔を強張らせていく必死な形相の蓮城に、さすがの十夜も折れ手出ししないことを誓ったのだった。




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